「「これは……!!」」
兵士達やラインベルクの私兵達が驚愕して立ち尽くす。
謁見室と王女の部屋へと続く廊下には、無数の兵士達が転がっていて、そのなかにはラインベルクの騎士団も混じっている。
「一体、何が?」
「ルキウス! 離れろ!」
俺は天井に張り付いている何かに気付いて叫ぶも、遅かった。何かが勢いよく俺達に向かって突っ込んでくる!!
俺は咄嗟に剣で防ぐと、何かと目があった。
「こ、こいつは」
ドラゴンの大群!?いや、ドラゴンにしては人間の赤ちゃんサイズと小さ過ぎる!
「クソ!何なんだよこいつらは!」
ざっと五十匹くらいの謎のちいさなドラゴンが、俺達に襲いかかって次々と兵士達を倒していく。
彼らの悲痛な悲鳴が聞こえるが、この大群じゃ自分の身を守るのに精一杯だ。
「おい、勇者さんよ!このちっこいドラゴンは何だよ」
「知るか!こんなの俺達の冒険で見たことのないドラゴンだ」
「てことは、対処法が無いんだね」
剣と魔法で一匹一匹少しずつ倒そうとするが、小さすぎて当たらない!
「こうなったら、ドラゴンにはドラゴンを!」
俺は叫んで、龍のブローチを天に掲げた。
「来い、フリード!」
次の瞬間、氷の竜が降臨し、世界を凍てつかせた――。
召喚されたフリードが、小さなドラゴンにめがけて氷の息吹をかけると凍って地面に落下して砕けていった。
だが、数が多すぎて四匹の小さなドラゴンがフリードに目掛けて突っ込んで噛みつく。
「ぎゃおおん」
幸い、鱗の上に形成された氷が砕けたくらいで済んだ。すぐにフリードが全身を振り回すと、すぐに小さなドラゴンを振りほどくことができた。
ようやく、小さなドラゴンを倒してホッとした俺達は、他の襲撃を警戒しながら息を整える。
俺とルキウスは、倒したドラゴンの残骸を拾い上げて調べるが、手がかりはない。
「なぁ、ヴィクトール。本当にコイツは見たことはないんだな?」
「あぁ。こんな小さなドラゴンは見たことはない。俺が見た中で一番小さいドラゴンはフェアリードラゴンだ」
「そのドラゴンの幼体とか?」
「いや、それも考えたけど、フェアリードラゴンは火を噴いたり簡単な魔法を唱えたりするが、このドラゴンはそれがない」
「そうだな。突っ込んで尖った牙で獲物を刺すか噛み付くの原始的な攻撃しか使ってこなかった」
俺とルキウスは、しゃがみ込みくまなく小さなドラゴンの正体を探すがわからない。最悪、ドラゴンの血や体液に毒や呪いが込められたら戦いどころじゃない。兵士の中に分析魔法が使えるやつがいたので頼んでも、慎重に調べても分からなかった。
「この規則的な攻撃、まるで規則的に動いているかのようだ」
「これってもしかして、王女が作り出した人工のドラゴンじゃないか?」
「もう、それしか考えられん。ルキウス、他にも王女の状態を教えてくれ」
「あぁ。ベルへイルズ王の親衛隊を訳の分からない魔法でなぎ倒して、自分の部屋に閉じ籠っていた。その時に『このブローチは私のものだ!!』って化粧が落ちるのを気にすることなく吠えてたくらいだ」
「ルキウス、他に特徴は無かったか? 例えば腕が大きくなったとか、肌がドラゴンの鱗みたくなったとか」
「うーん、そういえば」
俺の問いかけにルキウスが何かを言いかけたその時――。
「な、なんだ?!」
ひとりの兵士が叫び振り返ると、兵士が倒したと思われる小さなドラゴンが立ち上がった。
「おい、まだ戦う気よ。こっちにはデカいドラゴンがいるんだぜ?」
「おい待て、こいつ様子がおかしい!」
俺がヘラヘラとした顔で近付こうとした兵士を止めようとしたが、既に遅かった。
小さなドラゴンの身体がグググと急速に大きくなったかと思ったら、近づいてきた兵士に突進して頭突きしてきた。
「グぇ!!」
頭突きされた兵士が短い悲鳴をあげて壁に叩きつけられ、鎧が飴細工のように砕け散って動かなくなった。
「グルルル!!」
小さなドラゴンは、人間サイズのフェアリードラゴンくらいの大きさまで成長した。
「お、おい! 他のドラゴンもデカくなったぞ!」
ラインベルク家の部隊の一人が声を震わせて指を指した方へ向くと、三分の一くらいのドラゴンがむくっと起き上がり身体が大きくなる。
「ひ、ひぃ!」
「こんなの、どう戦えば良いんだよ」
兵士もラインベルク家の部隊も未知のドラゴンを前に怖気づいてしまう。
「おい! お前らそれでも王都の兵士なのか!!」
ルキウスが叫ぶが、先にやられた兵士の末路を見た彼らの耳に届かない。
「もういい! ビビっている兵士は弾避けくらいしか役に立たん! ルキウス、覚悟を決めろ」
「ええい!! 来いや!」
俺とルキウスが剣を構えて近づく奴らに臨戦態勢を整えたその時――。
ドゴ!!!
突然、死の扇動卿アハトによる相手の身体を金属に変える魔法の流れ弾が大きくなったドラゴンに命中した!
「アギャ!!」
「ウギギ……」
ドラゴンの脚が鈍く銀色に染まり、ギシィ……ギシィときしむ音と共に、全身が鋼鉄に変わっていく。
「おい。あのドラゴンの身体が! これは……金属にされてる?」
「あの魔法は何だ? もしかして、金属化する魔法?」
ほとんどのドラゴンは身体が段々鋼鉄になっていき、突撃しようとしたドラゴンも俺の足元に落ちて本格的な金属になった。
「おい。助かったけど、これって偶然にしては出来過ぎじゃないのか?」
ルキウスが冷や汗を額に垂らしながら俺の顔をみるが、俺もそう思った。こんな芸当が出来るのは、彼女しかない。
俺たちが窓の空を見上げると、アハトの目が俺の顔をみおろしていた。もしも本物なら、こんな状況で俺たちを見ている余裕なんてないはずだ。
「もしかして、あのアハトはフォルティナが作った奴だろうな」
「ともかく、彼女のおかげで助かったな。ヴィクトール、残りのドラゴンは俺たちで何とか戦えそうだ」
再び前をみると、最初に兵士を倒したドラゴンと、アハトの金属魔法で一部が金属化して地べたを這いつくばるドラゴンドラゴンが三匹残っている。
「ここは我らが倒すから、二人は王女の所へ行ってくれ」
ラインベルクの隊長が俺たちの前に現れる。
「良いのか?」
「勇者殿に醜態を晒してしまったけじめはしっかりとる。幸い、このドラゴンは単調な攻撃しかしない。今なら我らでも戦える! そうだろ!」
「「うおおおおお!」」
隊長の言葉に、兵士もラインベルクの部隊も呼応する。
「じゃあ、任せるぞ」
俺とルキウスが走って王女の元へ向かうが、空から祈るように手を合わせてるフォルティナの姿が見えて頼もしく見えた。
祈る手の先にあるのは、アハトではなく――この国全体だったのかもしれない。