「この奥が王女の部屋だが……」
俺とルキウスがようやく、王女近くの謁見室の廊下にたどり着くと、王女の部屋の扉の近くに積み上がった死体とクレーターが広がっていた。
ビキ!
激しい戦闘の後に出来た大きなヒビが、城を崩壊へと向かっている。
「なんなんだよ。こりゃあ」
ルキウスが絶句して一歩ずつ近づくと、部屋の隅で蹲っている人影を見つけた。
「おい、一体何があったんだ? ってベルへイルズ王だと!?」
「ひ、ひぃいいい!!」
よくみると、憔悴しきったベルへイルズ王だった。奴は自分の身を守る為に、死体から剝ぎ取った鎧に身を包んでいるが、サイズが合っていなくて金具が上まで止まっていなかった。
「お、おぉ! ルキウスに勇者か! 吾輩を助けに来てくれたのか。た、助かった」
昨日の謁見室でふんぞり返っていた王の威厳の面影もなく、生まれた小鹿の様に震えて縮こまっていた。
「んなわけねぇだろ。一体、何があったんだ」
俺は奴の胸元にあるボロボロの襟袖を掴んで低い声で問い詰める。
「ま、待ってくれ。話を聞いてくれ! こ、殺さないでくれ」
「俺の質問に答えたらな」
「わ、分かった。分かったから剣を向けるな!」
俺は手を話して剣を向けたまま尋問する。
「一体、この惨状は何だ?」
「わ、我が娘がブローチに取り込まれて暴走している!」
「なんだと!」
「我が娘は、部屋に引きこもって」
どごおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
その時! 王女のいる部屋のドアが木っ端みじんに吹き飛んだ!
「ひぃぃぃぃ! た、頼む! 娘を! 我が娘を助けてくれ」
もはや威厳もプライドを捨てて俺の足元にしがみついて泣きわめく王を蹴り飛ばして、俺は目の前の王女を見る。
「このブローチは私のものだ! 私の力ぁああ!! 私のだあぁあああ!!!」
王女とはとても思えないほどの犬歯をむき出しにして吠える。全身におぞましい魔力がこもっていて、立っているだけで皮膚が焼けそうだ。
「グルルル……!!」
かろうじて、上品な薄桃色のドレスとハイヒール、ネックレスで王女の面影を残しているが、金髪の髪が逆立ってて目が血走っている。
「俺が最後に見た時、こんなんじゃなかった。これじゃ魔獣みたいじゃねぇか!」
ルキウスの額に脂汗が滲む。
「キェエエエエ!」
魔獣に成り果てたた王女が叫び、手に持っているブローチを振り回すと、衝撃波が俺達に襲い掛かる!
「ウォオ!」
フリードが咄嗟に氷の息吹で対抗するも、俺達諸共吹き飛ばされた。
「おい、ルキウス。大丈夫か?」
「こっちは無事だ」
幸い俺とルキウスは、フリードの腹がクッションになって助かったが、ベルヘイルズ王はショックで気絶して白目を剥いている。どうやら奴は、死体がクッションになって大したダメージになってなさそうだな。
「一体、どう戦えば良いんだな?勇者さんよ」
「知らん! 前にフォルティナの自動防御魔法が暴走した事があったが、こんなの見たことがない」
「なんだと! じゃあ、どう対処したんだ?」
「その時は、俺がフォルティナを抱きしめたりなだめたら止まった。でも、そんな雰囲気じゃないだろ」
「ったく、ただの惚気かよ。聞いて損した」
ルキウスがため息をついて転がっていた兵士の剣を拾うと、目つぶしの魔法を王女に唱えて怯ませる。
「これでも喰らえ!」
ルキウスが光で目を瞑って怯んでいる王女に向けて、剣を投げつけてから加速する魔法を唱える。投げられた剣は稲妻の様に早くなって王女の方へ向かっていくが、加速した剣が手前で砕け散った。
「クソ! 自分の剣を投げなくて良かったぜ」
だがその時、王女の体表に異変が起きた。
――肌が、銀色に染まっていく。
「おい……これ、やばいぞ……!」
ただの暴走じゃない。
――これは、“覚醒”だ。