完全に銀色に染まった王女メラルは、宙を浮いて静かになった。
肌がピリつく様な魔力がスッと無くなり、両腕を前に突き出して俺達を睨みつける。
「私を影で馬鹿にした奴らは、この女神の力で根絶やしにしてやる」
女性とは思えないほどの低い声の恨み節が聞こえたかと思ったら、衝撃波が広がって周囲の壁が破壊されて吹き飛ばされた。
「くそ!! 防御魔法が!!」
俺とルキウスは防御魔法を展開し、フリードも氷の結界を張る。だが――衝撃波の威力に耐えきれず、意識が吹き飛ばされた。
「これは……!!」
再び目を覚めると、城の壁も天井も消し飛ばされていて真っ赤な空が瓦礫と死体の山を照らしている。
「おい! フォルティナ! フリード! ルキウス! どこにいる!? 返事をしろ!」
俺が必死に呼びかけると、一人の兵士が俺に気付いて周囲を見渡す。あの兵士は、紋章を外していてどこの部隊なのか分からない。
「フォルティナ!! 勇者様を見つけました!」
兵士が叫ぶと、民衆が駆けつけて彼女を呼ぶ。
「一体、どうなっている?」
俺が尋ねると、市民や兵士たちが答えてくれた。
「フォルティナ様が、大魔族を倒してくださったのです」
「ベルへイルズ王の圧政に女神様が助けてくれた」
「だけど、今謎の大魔族が城を破壊して暴れまわっている」
どうやらフォルティナの作戦が成功したみたいで、多くの市民と兵士を味方に付けたようだ。しばらくすると、涙目のフォルティナが笑みを浮かべて俺のところに駆けつけてくれた。
「ヴィクトール!! ご無事でしたか! 良かった」
駆け寄る彼女の目尻には、うっすら涙が滲んでいた。
「あ、当たり前だろ。君と約束した国造りが終わるまで死なねぇよ」
「ふふ、そうでしたね。早く回復魔法を」
「あ! ちょっと待って! 回復酔いの準備が」
俺は回復魔法に躊躇するが、彼女は有無を言わさず唱える。
「うぐ……」
俺の視界がグルグルと一気に回転し続けたかと思ったら、フォルティナが三人に分身したかのように見える!
頭に何度もハンマーでフルスイングされたかのような痛みや、内臓がひっくり返ったかのような痛みが一気に込み上がって思いっきり嘔吐した。
「か、回復魔法……。今回ばっかりはキツくね。ってオロロロロロ!!!」
「致し方ありません。貴方たちは――されたの――から相当ダメージが――」
「フォルテ――。今なんて言ったのか……。き――とれ――ぞ」
クソ! まともに前が見えなくて聞き取りづらくてフォルティナがどんな顔で何を言っているのか分からん!
必死に俺も何か訴えかけているが、自分の声すらまともに聞こえない。
「聞こえますか? これから、メラル王女を止めに行きますが、立てますか? 既にルキウスさんが足止めしています」
「あぁ、やっと聞こえる。今、あいつはどこにいる? 案内して一緒に戦ってくれ」
「もちろん」
俺は彼女の浮遊魔法で運ばれながらも、戦況を見る。ほとんどの市民や兵士達はフォルティナの奇跡を信じていているのか、彼女に対する黄色い声が飛び交う。
そして、塔や民家の上に兵士や魔法使い達が空中に漂う王女メラルに攻撃魔法や矢を放って攻撃していた。
「どこまでも!どこまでも私を馬鹿して!」
だが、魔族と化した王女に対しては効果はなく、防御魔法とは違う術式の赤い魔法で弾く。
「良いか!奴にありったけの攻撃をしろ!魔法の原理が分からなくても、魔力切れに持ち込め!」
王都の中で一番大きな時計台の上で、ルキウスがマントを翻して皆に呼びかける。
「俺達には!女神様の化身がいる!その証拠として、王都に侵入した大魔族を倒したではないか!」
夕日に照らされた彼の顔は勇ましく、その後ろにある女神像が彼を守っている。
「ルキウス!お前も私を見下すのか!!」
「俺を見下ろしている王女に言われたくない!」
ルキウスが、メラル王女を見上げて啖呵を切ると、民衆の歓声が鳴り響く。
鬼の形相になった王女が光で出来た大きな剣を取り出してルキウスの元へ滑空して襲いかかる!
不味い!
俺はフォルティナに頼んで高速魔法で彼らの下へ突っ込む。
「はははは!私こそが、女神様のご加護を受けた女王だ!!」
ルキウスが、自分が使える全ての攻撃魔法をぶつけるが、王女を怯まない。
王女が勢いよく、ルキウスへめがけて斬りつけようとする。
その瞬間――。
俺の剣が割って入り、王女の光の剣を軌道ごと逸らす。すかさず二撃目――右腕が、光とともに宙を舞った。
「ぎゃあああ!誰だ!」
王女メラルは叫び悶絶しながらも、再生魔法で切り落とされた右腕を生やして俺を睨みつける。
「間に合った!ルキウス、大丈夫か?」
「遅かったじゃないか、勇者様よぉ。だが、助かった」
よし、これでメラルと戦える。たぶん、魔力切れか不意打ちで攻撃が入ったんだろう。
「これで、俺達に光が見えたな」
「勇者ヴィクトール!何故、勇者が女神の化身を裏切る?」
「女神様の化身はフォルティナだけだ!」
自分の腕を切り落とした相手が俺だと分かると、メラルは顔を引き攣って眼光を開く。
さぁ、第二ラウンドの開始といこうじゃないか!