「どいつもこいつも、フォルティナフォルティナフォルティナと! 何故純粋な血統の私ではなくあんな孤児が!!」
「俺の女神様を侮辱するな!!」
俺とメラルの叫びが空に響き、メラルの衝撃波が俺達に襲いかかる。
「うぉ!!」
俺は後ろにあった女神の像の胸の方へ吹き飛ばされた。
「お前フォルティナだけにとどまらず、女神様の像の胸に飛び込みやがって」
「うるさい! 仕方ないだろ! お前こそ、女神像の腕にしがみついてみっともないじゃないか!」
「お前ら! ここへきても私を愚弄するのか!」
メラルが叫びと共に振り下ろすのは、光から生まれた剣――〈断罪の燭剣〉。
「くるぞ、あの技!」
俺はルキウスに目配せし、すかさず右に飛び退く。
「フリード、今だ!」
フリードの氷結ブレス〈ブリザードロア〉が地面を凍てつかせ、メラルの動きを奪う。
「今度はこっちの番だ!」
ルキウスが〈フレア・スパイク〉を空中から放つ。赤い炎の槍が、凍り付いた足元をめがけて一直線に落ちた。
「小賢しい!」
瞬時に気付いたメラルが後ろに振り返り、俺達の火炎魔法を打ち消そうとするが間に合わず右脇腹をかすめて叫ぶ。
その際に、メラルの魔力が減ってないのに、攻撃魔法や防御魔法の使用頻度が減っている事に気付いた。
「ルキウス! なんかおかしい。アイツ、魔力はあるのに魔法を使う回数が減ってる!」
「戦術変更か……?」
「いや、違う。魔力の色、ちょっと前と変わった? まさか……!」
俺の中で、ひとつの仮説が浮かぶ。
「おいルキウス! これって、他人の命を魔力に変換して使ってるんじゃないか?!」
「つまり、城で死んだ兵士や貴族の“命”を糧にしてるってのか!?」
「そうだ。多分、それが尽きかけてんだ!」
「何をごちゃごちゃと! 私は、女神の化身そのものだ! お前たちなんぞ捻りつぶしてみせるわ!」
「「やってみろよ!王女さんよぉ!!」」
俺達二人とドラゴン一匹でメラルの魔力の消耗戦を繰り広げる。
二人がかりでメラルの光の剣を受け止めてかわし、隙をついてフリードが氷の息吹や結界で凍らせる。それをメラルが粉砕して俺達を衝撃波で蹴散らす。
全ては、奴がフォルティナへの警戒心を削いで時間稼ぎする為だ!
「おい、ヴィクトール。いつまで時間稼ぎすれば良い?メラルの魔力が尽きる前に、俺の魔力が尽きそうだ」
「弱音を吐くな。フォルティナを信じるんだ」
ルキウスの弱音に反論するが、俺もそろそろヤバイし、フリードも限界だ。
ここへ来る前に、彼女から時間稼ぎするよう言われたが、女神様の力の解除魔法とやらはいつくるんだ?
夕日はとっくに沈んでいて、今は民衆や魔法使い達達が灯している灯台の光を頼りにメラルと戦っている。
「ふふふ、どうした? さっきまでの勢いは! 剣を持つ手が震えているぞ?ルキウスに勇者よ」
メラルが不適な笑みを浮かべて俺達を見下ろしている。だが、よく見るとメラルの肌が薄汚れていて、顔に皺が出始めている?
「どうだ? この女神様に命乞いをしてみろ。そうしたら、家来として命だけは助けてやるぞ?」
「その必要はありません」
「その声は、フォルティナ!?」
突如、上空から太陽の光と似た輝きがメラルの方へ照らされた。
「な、なんだ! この光は……。って私の力が! 女神様の力が!!」
上空から差す一筋の後光。
それはまるで、長く閉ざされていた雲間に、神が差し伸べた一本の剣のようだった。
その光に触れた瞬間、メラルの肌から禍々しい力が削げ落ち、声がひび割れる。
「ったく、遅かったじゃないか」
「ヴィクトール、みんな、申し訳ありません。女神様のブローチがないと、この魔力を解除するのに時間がかかってしまうんです」
俺とルキウスが安堵した表情で、輝く後光を浴びるフォルティナを見上げる。その神々しさは、本物の女神様の化身そのものだ。
「メラルさん。今なら女神様のブローチを返してくれれば、罪に問わないと女神様はお告げしています。ではお返し……」
「フォルティナああああああああ! よくも!!」
メラルが最後の力を振り絞って、禍々しい魔力を纏った拳を掲げる。
だが次の瞬間――
「もう、終わりにしましょう」
フォルティナの囁きと同時に、彼女の胸の宝石が淡く光り、空間そのものが静寂に包まれる。
光が爆ぜ、女神の力が完全に剥がれ落ちた。
メラルの身体はそのまま静かに倒れ――
「メラル……あなたは、最初から、苦しかったんですね」
フォルティナの瞳に、一粒の涙がこぼれた。