「やっと、終わったな」
ルキウスの表情が穏やかになって、大の字になって倒れ込む。
フォルティナの神々しい姿を見たフリードが怯え始めたので、俺は召喚魔法で戻してフォルティナの元へ歩く。
「助かった……。一時はどうなるかと思ったけど、よく頑張った」
「はい!貴方こそ、時間稼ぎありがとうございます……て、うわぁ!」
やっと戦いが終わって緊張が解かれたのか、頭がボーっとしてフォルティナを押し倒す形で倒れ込んでしまった。
「え?え、ええ?! だ、大丈夫ですか?」
「おいおい、せっかちだなぁ。ぱふぱふすんなら修道院の部屋でやりゃあいいのに」
「え!? ぱふぱふってそういう」
頭がボーっとしている中、フォルティナの動揺する声とルキウスのからかう声が聞こえて恥ずかしくなったが、身体が言う事を聞かない。
「ちちちょっとどかしますね」
「ぐぇ!」
彼女が力強く俺を押しのけて、瞬時に回復魔法をかける。
そして、また気持ち悪い回復酔いが襲い掛かって意識が遠のく。
「よぉ、彼女の膝枕じゃなくて悪かったな。今立て込んでるんだ」
ルキウスの軽口が聞こえたので目を覚ますと、民衆と兵士に囲まれながらも抵抗する王女メラルと説得を試みるフォルティナが目に映った。
よくみると、俺はルキウスが用意した椅子に座っていた。
「く、来るな!馬鹿にするな!」
「誰もあなたのことを馬鹿にしてはいません。さぁ、早くお返しください」
「何度も言わせるな!この女神様のブローチは純潔たる一族が継承すべきだ」
半狂乱の王女は、首にかかった女神様のブローチを天に掲げる。
一体、何をする気だ?
「ですが、女神様は私を」
「えぇい!うるさい!だったら民衆に証明してやる!女神様よ!このブローチに相応しい純潔の一族を選び、混血の紛い物に裁きを与えたまえ!」
「良いでしょう。貴方の願いを叶えましょう」
突如、フォルティナでもメラルでもない、透き通った声が、どこからともなくこの夜空に響き渡る。
周囲が見守る中、一筋の光がメラルに降り注いだかと思ったら、陽の光を浴びて苦しみ始める!
「な、何故だ、女神よ! グギギギァァァァァァ!」
彼女の皮膚に皺やシミが出てきて、顔も老婆へと成り果てる。それを見た俺たちは啞然とその光景をみて、民衆は悲鳴をあげて腰を抜かす。
ただ一人、フォルティナだけは結末が分かったのか変わり果てた王女を真っすぐと見ている。
「私はすべてを見ていた。親の愛を受けた孤児として生まれ、民を思い、血を流し、それでも祈りを忘れぬ、……彼女こそ、光にふさわしい。光は降りる」
その時、女神様らしき声が俺達の脳へと響き渡る。
「女神よ……。これはどういうつもりだ」
「ま、まさか。黒歴史が本当だったのか」
「父上……?」
突如、ベルヘイルズ王の声が後ろから聞こえた。振り向くと、憔悴しきった王はラインベルク家の騎士団に両脇を抱えられている。
「父上、これは一体?」
「あぁ。我らは、正当な王の一族ではなかった」
「な、なんですって……?」
「二百年前、当時商人だった我らの先祖は、この国の財政難を救う為に王から王位継承の権威を金で購入したと伝え聞いている」
ベルヘイルズ王からの突然の話に、皆注目する。メラルの目には絶望に染まっていて、唇を噛んでいた。
「そんな……。嘘だ!」
「吾輩も嘘だと思った……。この伝承を父上、いや先代の王から聞かされた時は怒り狂った。だから、吾輩はそんな歴史を認めなかった」
「その結果が、他国への無計画な侵略だったとはな」
ベルヘイルズ王の独白に、ルキウスがピシャリと断罪する。
「目の上のたんこぶだった魔王が討伐された今なら、勇者とフォルティナ一行を討ち取ってその首を女神様に捧げれば認めてくれる。その願いはもう潰えた」
「ぜぇ……。ふじゃ……ける……ゲボゲボ」
自分の父上の衝撃的な発言にメラルは睨みつけて喋ろうとするが、声が嗄れていて聞き取れない。それどころか、息をするのがやっとなほど弱り切っている。
だが、それでも女神様のブローチを渡そうとはしない。
「私が王族、女神様の血筋じゃなければ、私には何も残らないのよ……!」
その時、メラルが最後の力を使って何かをし始めた。
「このブローチが……消えれば……女神の力も、この国も、全部……!」