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第6話 10月8日:嶋村 蓮

「鳳髄祥太郎くんです。みんな、仲良くしてあげてね」


 担任が紹介すると、一気に教室内が沸き上がる。

 転校生なんていつ依頼だろうか。

 そんな高揚感で包まれる。


「じゃあ、祥太郎くん。挨拶して」

「……よろしく」


 そうぶっきら棒に言うだけの転校生に、教室内の興奮も治まり不穏な空気が流れる。


「席は田中くんの隣ね」


 担任がそう促しても返答もせずに黙って席まで移動する祥太郎。

 この時点でクラスの半数近くが祥太郎の態度に顔をしかめている。

クラスの中心である健吾も同様に、転校生を生意気なやつだと判断した。

 そんな中、蓮だけが目を輝かせて祥太郎を見ている。


(よし)


 蓮は心の中でガッツポーズをしたのだった。



 ***



 その日の休み時間や昼休みに果敢に祥太郎に話しかける生徒がいた。

 だが、その全員を無視し続ける祥太郎に対し、転校一日目にして完全にクラスから浮いてしまう。


 帰りのホームルームが終わり、生徒たちがいつものグループに分かれて帰っていく。

 当然、どのグループも祥太郎に話しかけることはなかった。


 教室内に残ったのは蓮と結翔と祥太郎の3人だけだ。


 頃合いだと見て蓮は立ち上がり、帰り支度をしている祥太郎のところへ歩み寄る。


「初日お疲れ様。やっぱり緊張したのかな?」


 祥太郎は蓮をジロリと一瞥すると興味が失せたような表情をする。

 そして返答をせずにカバンを手に取り立ち上がって教室を出て行く。


「げっ! 結翔、追うぞ!」

「う、うん……」


 結翔もカバンを持って立ち上がる。

 蓮は結翔と一緒に祥太郎を追う。


 廊下を歩く祥太郎の前に回り込み、なんとか取り入ろうと話しかける。


「ちょっと待ってくれよ。少し話そうぜ」

「……邪魔なんだけど」


 蓮を押しのけて進む祥太郎。

 そんな祥太郎の態度に、蓮は苛立ちどころか更に興味が増していく。

 どの同級生とも違う、初めて見るタイプだった。


 いくら連でも、転校してきた教室で祥太郎のような態度は取れない。

 気が強いというより、どこか周りを見下しているような、そんな態度だった。

 体格だって蓮よりも一回りも小さく、結翔と同じくらいの体格だ。

 それなのに周りと孤立しても全く気にしていない。

 それが蓮にとってどこか大人びて見え、格好いいとさえ思ったのだ。


「結翔」

「うん」


 今度は結翔と二人で祥太郎の前を塞ぐ。

 すると祥太郎は立ち止まって、結翔をジッと見る。


 祥太郎の視線を受けて、僅かに後ずさってしまう結翔。


「君、名前は?」

「え? 結翔。西山結翔」

「ふうん」


 今度は蓮の方を見る祥太郎。

 自分も名前を聞かれるかと思っていたが、祥太郎の言葉は意外なものだった。


「君は結翔の友達?」

「え? あ、うん。親友……だよな?」

「うん」


 結翔が頷いたのを見て、祥太郎は初めて笑顔を見せた。

 ただ、それはどこかぎこちなく、無理やり作ったような表情だった。

 蓮たちは違和感を覚えつつも、笑顔を見せてくれたことに安堵した。


「いいよ。話そうか。でも学校じゃ嫌だな。あんまり目立たないような場所がいい」


 蓮はなぜ祥太郎がそんなことを言うのかが理解できない。

 ただ、それを断ればもう話す機会を作れないかもしれない。

 そう思うと祥太郎の言うことに合わせるしかなかった。


「じゃあ、いいところがある」


 蓮はそう言ってぎこちなく笑った。


 ***


 蓮と結翔は祥太郎を秘密基地へと連れてきた。

 本当ならもっと仲良くなってからこの場所を教えたかったが、ここ以外に人目に付かないような場所が思いつかなかった。


 山の奥にあった小さな小屋を利用した秘密基地。

 今にも崩れてしまいそうなほど古いが、それが蓮たちにとって秘密感が増してお気に入りだった。


 男なら誰だって気に入ると自信を持っていた蓮だったが、祥太郎は顔をしかめてため息をつく。


「汚っ! ……けど、まあしょうがないか。人目に付かないってところを考えればちょうどいいかな」


 気に入るどころかどこか妥協したというような雰囲気。

 そんな祥太郎の反応に、蓮と結翔はがっくりと肩を落とした。


「ん? ああ、ごめんごめん。悪く言うつもりはなかったんだ。じゃあ、色々と聞きたいんだけどいいかな?」


 教室での態度が嘘のように、祥太郎の方から話しかけてくる。

 なにがなんだかわからなかったが、蓮たちは祥太郎の質問に答えていくのだった。

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