(なんだ、この部屋?)
祥太郎の部屋に入って、蓮が最初に思ったのがそんな感想だった。
何もない部屋。
正確にいうと、ベッド以外何もない部屋だ。
机も本棚もタンスやクローゼットさえもない。
殺風景どころじゃない。
まるで牢獄ではないかとさえ思う。
ここまで何もないと、逆に不気味とさえ感じる。
(勉強とかどうしてるんだ?)
もしかするとこの部屋は単なる寝室で、祥太郎の部屋は別にあるのかもしれない。
そんなようなことも考えた蓮だったが、背負っていたカバンを乱暴に床に置いたので、それはないのだろうと直感した。
(さすがに聞いてみるべきだよな?)
蓮が意を決して祥太郎に聞こうとした時だった。
「結翔は兄弟いるの?」
先に祥太郎の方が質問をする。
「う、ううん。いないけど」
「そうなんだ? お母さんは優しい人?」
「……なんで?」
なぜそんな質問をするのだろうと戸惑う結翔に、祥太郎はさらに畳みかけるように喋り出す。
「今度、結翔の家に遊びに行っていい?」
「え?」
「結翔はいつも家でなにしてるの? テレビとか見る? どんな番組が好き?」
「お、おい! 祥太郎! 結翔が困ってるだろ!」
「え? ああ、ごめんごめん」
泣きそうになっている結翔を見て、祥太郎はまたわざとらしい笑顔を浮かべる。
「怖かった? いや、違うんだよ。君……たちのことが知りたくてさ」
結翔から視線を外して、今度は蓮の方を見る。
そして蓮にも笑顔を向けた。
もしかすると祥太郎に笑顔を向けられたのはこれが初めてだったかもしれない。
なんで唐突に蓮にも話題を振って来たのかわからない。
今までずっと蓮を邪魔者のように見ていたのに。
「本当は学校でも寂しかったんだよ。誰も話しかけてくれないし」
「それは……祥太郎が無視したからだろ」
「そんなつもりはなかったんだ。俺、結構、緊張するタイプでさ。緊張すると喋れなくなるんだよね」
蓮はその言葉に対して、嘘くささを感じていた。
どう見ても緊張しているというような雰囲気ではなかった。
だが。
「そうなんだ。僕も同じだからわかるよ」
結翔の方は祥太郎の言葉を信じたようで、さっきまでの緊張も少し解けたようだった。
蓮は祥太郎が嘘を言っているんじゃないかという気持ちを飲み込む。
せっかく打ち解け始めていきたんだ。
ここで変なことを言って、また悪い空気にはしたくない。
だから蓮も無理やり笑顔を作った。
「まあ、いきなり全員が知らない人間のところに一人で飛び込むんだから、緊張するよな」
「そうそう。そうなんだ。前の日も寝れなくってさ」
「あはは。僕も運動会とか学芸会の前の日は眠れなくなるよ」
「それで体調崩すことも多いもんな、結翔は」
「ちょっと、蓮くん、それは言わないでよ」
蓮と結翔の話を聞いて、祥太郎が笑う。
それは今までとは違い、自然な笑いのように感じた。
3人で親友になれる。
そう思うと、自然と気分が高揚してきた。
蓮は去年の運動会のことや学芸会のことを話す。
話が盛り上がってきたところに、ドアがノックされる。
「祥太郎。入るよ」
ドアが開き、中に入ってきたのは先ほど見たおばあさんだった。
お盆を持っていて、その上にはジュースとお菓子が乗っている。
「ありがとう、おばあちゃん」
祥太郎はおばあさんからお盆を受け取り、それぞれの前にジュースを置き、真ん中にお菓子を置く。
「ごゆっくり」
おばあさんは笑顔でそう言って、部屋を出て行く。
ジュースとお菓子に蓮と結翔はさらに気分が上がった。
蓮はさっきおばあちゃんに対して、不気味に思ったことを心の中で謝った。
(いいおばあちゃんだよな)
「あ、そうだ。ちょっと待ってて」
祥太郎が立ち上がり、部屋を出て行く。
「……いいやつだよな、祥太郎って」
「うん。きっと教室だと気を張って上手くしゃべれなかっただけだったんだよ」
二人はうんうんと頷いてお菓子を食べ、ジュースを飲む。
すると祥太郎が部屋に戻ってくる。
手に持っていたのはボードゲームだった。
年季が入ったボードゲーム。
蓮と結翔にとっては逆に新鮮だった。
ゲームと言えばテレビに繋ぐもののイメージしかない。
「これ、やってみない?」
「面白そう!」
「だな! どうやってやるんだ?」
「これはね……」
そう言って、箱を開けるとルーレットとマス目がある。
いわゆるボードゲームだった。
「ゲームで同じようなのやったことある」
「けど、実物を見たのは初めてだな」
「面白いからやってみよう」
祥太郎はそう言って箱からボードゲームを出す。
それを見て、蓮と結翔の心は最高潮に盛り上がったのだった。