蓮は何が何だかわからなかった。
あまりのことで頭が真っ白になる。
***
それはいつもの朝――のはずだった。
学校があるから7時に起き、いつも通り朝ご飯を食べるためにリビングへと向かう。
いつもであればテーブルに朝ご飯が用意されているはずだが、何もない。
変だと思い、キッチンへ向かうと誰もいなかった。
(あれ? 今日って土曜だっけ?)
ただ、そうだとしても母親は休日もいつも同じ時間に起きている。
朝ご飯だって同じ時間に作ってくれていた。
休日はそれをレンジで温めて食べるのだが、何も用意されていないのは明らかに変だった。
そのとき、リビングのドアが開く音がする。
慌てて蓮がリビングに行くと、袋を持った母親が立っていた。
母親は疲れた表情をしていて、持っていた袋をテーブルの上に置いた後、ソファーの方へ向かい座り込んでしまう。
「お母さん、どうしたの?」
「ごめんね、蓮。今日のご飯はコンビニのご飯を食べてってくれる?」
「うん。いいけど、珍しいね。コンビニのご飯なんて」
「さすがに疲れて、作る気にならなかったから」
「なんかあったの?」
「……そうねぇ。今日、学校から帰ったら話すから」
「わ、わかった……」
蓮は気になったが、母親がそう言うのだから今聞いたところで話してはくれないだろうと思い、諦めた。
だが、今度は玄関のドアが開く音がして、足音が近づいてくることがわかる。
ドアが開き、入ってきたのは父親だった。
父親の方も疲れ切った顔をして、フラフラと母親の隣に座る。
二人とも何か変だった。
なんで朝から出かけていたんだろうと不思議に思う。
「あの子……そのまんま火葬場に運ばれたよ。13時に火葬だってよ」
父親が大きくため息を吐きながらそんなことを言った。
母親はチラリと父親の方を見る。
「……え? お葬式は」
「しないそうだ」
「お通夜とかも?」
「ああ」
「何を考えてるのかしら」
「さあ」
疲れ切っているのか、父親も母親もソファーの背もたれに寄りかかりながら話している。
「……お葬式って?」
蓮がそう聞くと父親は体勢を変えずにソファーに寄りかかりながら話し始める。
「昨日……っていうか、今朝か。なんて言ったっけ? ……ああ、鳳髄だっけ? あの引っ越してきた家」
「……ちょっと、あなた」
「いいだろ。どうせ学校に行けばわかるだろうし」
「まあ、そうか……」
母親はそういうとそれ以上何も言わなかった。
「その家の子が、亡くなったんだよ」
蓮は最初、父親の言ったことが理解できなかった。
「えーっと、確か祥太郎だっけ? 確か、蓮の同級生だよな?」
(は? 祥太郎が死んだ?)
そんなわけないと思うが、そんな蓮をよそに父親が話し続けた。
父親の話では昨日、祥太郎は学校から家に帰らずに裏山に一人で遊びに行き、そこで崖から転落して亡くなったのだという。
蓮は何が何だかわからなかった。
あまりのことで頭が真っ白になる。
(なんだそれ? 全然違う)
昨日、蓮は結翔と一緒に祥太郎の家に遊びに行っている。
帰ったのは17時くらい。
そのときは変なところはなかった。
(あの後、家を出たのかな? けど、なんのために?)
考えれば考えるほど疑問が出てくる。
裏山と言えば蓮たちの秘密基地がある場所だ。
そこに一人で遊びに行ったのだろうかと考えるが、そもそも祥太郎が秘密基地に行くのが嫌で家に遊びに行っている。
あまりにも話が食い違っているため、蓮は混乱し、それ以上何も考えることはできなかった。
なので昨日のことも両親は話さなかった。
昨日、祥太郎と一緒にいたと言えば色々と聞かれるかもしれない。
そうなっても上手く説明できるとは思えなかった。
(結翔と相談しよう)
蓮はテーブルの上の袋からおにぎりを1つ取って食べる。
そして急いで学校に行く準備をするのだった。
***
7時30分。
通学路の途中の待ち合わせ場所で結翔のことを待つ蓮。
しかし、いつまで経っても結翔は来なかった。
結翔が遅刻するなんて珍しい。
いつもは蓮の方が遅刻してくるくらいで、待ち合わせ場所に行けば必ず結翔が待っていた。
それなのに今日は待っていても来ない。
(さすがにこれ以上は遅刻しちゃうな)
仕方なく学校に一人で向かう蓮。
そして学校に行き、朝のホームルームで結翔が来なかった理由が分かる。
風邪をひいたらしく、今日は休みだった。
(結翔が風邪……か)
珍しいなと蓮は思った。
結翔は体が小さく、気が弱いが実は体がかなり丈夫だ。
蓮は今年、既に風邪で3回も学校を休んでいるが、結翔はゼロ回。
確か去年も休んだ日はなかったはずだ。
(帰りに結翔の家に行くか)
朝のホームルームが終わると、1時間目がなくなり、全校集会が行われた。
そこで校長の口から、祥太郎が亡くなったということが話されたのだった。