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第26話 10月11日:氷室 響也

 氷室はこの数日の捜査が何のためにやっていたかも改めて説明していく。


「まず、蓮から聞けた情報についてだ」


 土曜の昼。

 蓮からの情報を得たことが、かなり大きな成果になった。


「祥太郎は蓮と西山の2人と接点があった。そしてその次の日に死んでいる。さらに蓮は祥太郎の死について、何かを隠している」


 このことは既に説明しているので、問題なく若菜が頷く。


「さらに蓮たちが秘密基地にしていた小屋を燃やしたのは鳳髄誠一郎だとわかった」

「はい」

「おそらく、あの小屋が祥太郎を殺害した現場だ。その痕跡を消すために燃やしたんだろう」

「どうしてそう思うんですか?」

「祥太郎が死んだ次の日に燃やしたからだ。あまりにもタイミングがよすぎる。というより、早過ぎだ」

「急いで燃やさないとならなかった……ということですか?」

「そうだ。誠一郎は祥太郎から、あの小屋は『秘密基地』だとも聞いていたんだろうな。早くしないと蓮たちが来る可能性が高い」

「そう考えると辻褄は合いますね」


 若菜は顎に手を当てたまま、小さく何度も頷いた。

 だが、すぐに首を傾げる。


「でも、何かを隠してたということは考えられませんか? それ自体を燃やしたかったとか」

「それはない」

「なんでですか?」

「あの場所は蓮たちが知っている。わざわざ人が来る可能性の高い場所に隠し物はしないだろ?」

「あっ! 確かに……」

「それにあの小屋には鍵がかかっていない。一時的に何かを置いていたとしても、すぐに回収できる。燃やすなんて目立つことをしなくてもな。それにもし、何かを隠していて、それごと燃やそうとするなら、確実に小屋の中にあるかを確かめてから燃やすはず。だが、誠一郎はドアを開けることなく、すぐに火を付けている」


 そのことから、氷室はあの小屋が犯行現場である確率は90パーセントくらいだと思っている。

 それだけに瓦礫を撤去されたのは痛かった。

 念のため、氷室は小屋があった場所に行ってみたが、ほぼ撤去されていることを若菜と共に確認した。

 おそらく誠一郎が手を回したのだろう。


「小屋から情報を得るのは無理だ」

「そうですね……」

「だが、同時にあの小屋が犯行現場だとすると違和感が出ることがある」

「なんですか?」

「『祥太郎が体が弱い』というところだ」

「それが、なんの違和感なんですか?」

「蓮が言っていただろ? 祥太郎は秘密基地に来るのも辛そうだったって」

「そっか。そんな場所に祥太郎くんを呼び出すにしても、来られない可能性も出てくる……」

「そうだ。祥太郎の体が弱いことを父親の誠一郎が知らないわけがないからな」

「それに、山で亡くなったのも変です」

「ああ。そんな場所にわざわざ行くのかって話だ」

「でも、それは……祥太郎くんが嘘を付いたという可能性もありますよね?」


 そう。

 単に祥太郎が、わざわざ山を登って秘密基地に行くことを面倒くさがった為についた嘘ということも考えられる。


「だから、それを確かめたかった」

「……それで担任の先生のところや病院に行ったんですね」

「そうだ」


 蓮の話を聞いた後、氷室はすぐに若菜に村にある病院に案内してもらった。

 村にある病院は2つ。

 氷室はそこで、3時間をかけて常連の患者たちから情報を収集した。

 祥太郎のことを調べていると気付かれないように、日常会話の中に聞きたい情報を織り交ぜていた。

 それを祥太郎のクラスの担任に対しても同じようにして、話を聞き出した。


「結果は嘘と本当が半々といったところだな」

「どういうことですか?」

「教師に、体が弱いと言っていたのは本当だった。母親から電話があったと話していたからな」

「じゃあ、病院の方に行ったのはどういう目的だったんですか?」

「体育を休ませるくらいだからな。持病を持っていたんじゃないかと思ったんだ」

「病院に通っていたかどうかを聞いてたんですか?」

「ああ。だが、祥太郎はどちらの病院にも来たことがなかった。ただ、村に来てから2日だからな。まだ通い始めてないだけかもしれないが」

「そう……ですね」


 祥太郎に関しては収穫はなかった。

 だが、病院内で村人から鳳髄家のことを聞けたのは大きかった。


 そして気になる情報を聞けた。

 それは祥太郎の母親が村の男と一緒にいたという話だ。

 祥太郎が行方不明で村人が必死に探しているときに。


 つまりは母親の方も、祥太郎に対して何一つ心配はしていなかったということを意味する。


(火葬場に来てなかった時点でなんとなくわかってはいたが)


 ただ、なぜそんなタイミングでわざわざ不倫のような目立つようなことをしたのか。

 あの日は、それではなくても村人たちが村の中を歩き回っていたはずだ。

 見られる可能性が高かったはず。

 現に村の人に目撃されてしまっている。


(わざと見られたかった……? なんのために?)


「……氷室さん?」

「ん? ああ、すまん。祥太郎の母親のことでわからないことがあってな」


 氷室は今、考えていたことを若菜に伝える。

 すると若菜はニコニコと子供っぽい笑みを浮かべた。


「そういうスリルも楽しんでたんですよ」

「そんな馬鹿な……とも言えないか」

「そうです。不倫する人なんて、人とは違う考えなんですから」


 若菜の言葉に妙に納得する氷室だった。

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