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第27話 10月14日:嶋村 蓮

 休みの間、蓮は結翔の家に行くのは控えた。

 土曜日に家に行ったとき、帰り際に「それじゃ、学校でね」と言われたからだ。

 それは遠回しに休みの間は来ないでほしいということなんだろうと、理解した。


 もしかしたら、結翔の方から蓮の家に来てくれるかもしれないと期待したが、結局来てはくれなかった。

 だから学校では会えると思い、少し早めに学校へと向かう。

 最初はいつも待ち合わせする場所で待とうかとも思ったが「学校でね」と言われたから、そのまま学校に行くことにした。


 教室に入る前、結翔が来ていることを祈りながらドアを開ける。


(誰もいない……)


 蓮は仕方なく自分の席に座り、結翔を待った。

 教室に徐々に生徒たちが登校してくる。

 そわそわしながら結翔が登校するのを待つ蓮だったが、担任が教室に入って来てホームルームが始まった。


(結翔……。どうなってるんだよ)


 担任が出席を取っていく。

 何人かが休みで、その生徒は風邪だと担任が報告する。

 結翔の名前が呼ばれるが、当然、返答はない。


「あれ? 西山くん?」


 担任が顔を上げ、結翔の席を見る。

 だが、結翔の席は空席だ。


「誰か西山くん見てない? トイレ行ってるとか」


 教室のみんなは誰も反応しない。

 なぜなら、蓮と同様に結翔はクラスから無視されているからだ。


「嶋村くんは知らない?」


 担任に聞かれて、蓮は首を横に振る。


「おかしいなぁ」


 担任は首を傾げた後、出席を取り続ける。


 そして蓮は嫌な予感がしていた。


 授業が始まっても結翔が登校してくることはなかった。

 給食を一人で食べ、すぐに教室を出る。

 蓮は結翔がいないと、教室がこんなに居づらい場所になるとは思ってもみなかった。


 いつもは結翔としゃべていれば昼休みなんてすぐに終わったのに、今は5分が物凄く長く感じる。


(どこで時間を潰そうかな)


 そう思いながら廊下を歩いていると、担任が蓮を見つけて駆け寄ってきた。


「嶋村くん、ちょっといい?」

「え? あ、はい」


 そして蓮は担任と一緒に進路指導室へと向かった。



 ***



「行方不明?」


 職員室ではなく進路指導室に呼ばれたのは、他の生徒に話を聞かれないためだった。

 真剣な表情をした担任から結翔が朝、学校に登校するために家を出たと、母親から確認が取れたと告げられた。


「まだ、行方不明って決まったわけじゃないけど……。今、先生たちが探してる。それで、嶋村くん。西山くんが行きそうな場所を知らない?」


 蓮は一瞬、秘密基地のことを思い出す。

 だが、あそこはもう燃えてなくなってしまっている。

 結翔にもそのことを話しているから、あの場所に行ってることはないはずだと思う。


(それ以外に結翔が行きそうな場所……)


 考えてみるが、全く思い浮かばない。


 蓮は結翔のことならなんでも知っている気がしていたが、それは自分の勝手な思い込みだと痛感する。

 そもそも、今、結翔が何を考えているのかまるでわからない。


「先生、俺も探しに行っていい?」


 蓮の言葉に担任は少し驚くが、少し考えてから頷いた。

 担任は蓮が午後の授業を休むことよりも、結翔がいなくなったという状況の方が深刻と考えたようだった。


「見つけたら、すぐに学校に連絡して。あと、危ないところには近づかないこと。いい?」

「うん、わかった」



 ***



 蓮は思いつく限りの場所へ走って向かった。

 いつもお菓子を買っているスーパー。

 朝、待ち合わせしている場所。

 時々遊ぶ、村の外れにある公園。


 そのどこもが全て空振りに終わる。


(結翔。どこにいるんだよ)


 前までは結翔が何を考えているか、なんとなくわかっていた。

 なのに今は何を考えているか全くわからない。


 それはあの日――祥太郎が死んだ日からだ。


 あの日から何かが変わってしまった。

 狂ってしまった。


 蓮はまるで自分が異世界に迷い込んだような感覚さえした。


 一緒に遊んでた祥太郎が、その日の夜に事故で死んだ。

 しかも、秘密基地があったあの山で。


 そして結翔も、あの日は一緒に帰ったはずなのに、家に帰ったのは8時過ぎだった。

 それから蓮と会ってくれなくなった。


 さらには失踪。


 とにかく蓮は結翔と会って話したかった。

 きっと、何かを抱え込んでいる。


(どんなことだって、二人なら解決できるって!)


 蓮は最後の望みとして、裏山に向かった。


 結翔と一緒に作った秘密基地があった場所。


(結翔も落ち込んでいるはず)


 そう思った。

 そう思い込もうとした。


 あそこにいけば、きっと結翔がいて一緒に泣いてくれる。


 そう願った。


 そして、秘密基地があった場所に到着する。


 だが、ほとんど片付けられ、多少残った瓦礫の上にいたのは結翔ではなかった。

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