「家出!? そんなわけない!」
蓮はそう断言できた。
確かに今までクラスメイト達から無視されたり、当たりが強かったりして嫌気がさしたことは何度もある。
秘密基地で、結翔と何度愚痴を言ったかわからない。
その中で村を出て行きたいと話したことだってある。
ただ、そのときは一緒にだと誓い合っていた。
それにどちらかというと、村を出て行きたいという願望は蓮の方が強く、結翔はあまり乗り気ではなかった。
それなのに蓮を置いて、しかも黙って一人で村を出て行くなんてあるわけがない。
「結翔くんのお母さんもそう言ってるんですけどね……」
報告をしている若菜も難しい顔をしながらポリポリと頬を掻く。
昨日の夕方に秘密基地があった場所で氷室に会った蓮は、そのまま氷室と一緒に結翔の捜索をした。
ただ、既に思い当たる場所は確認した後なので、闇雲に歩いて探しただけだ。
なので見つかるわけもなく、その場は解散となり、次の日の朝に氷室の家にやってきたというわけである。
氷室の家に行くと、ちょうど若菜も来ていた。
若菜の方は、遅くまで結翔の捜索を手伝っていたせいで、夜に氷室の家には来れなかったらしい。
蓮はなんで若菜が氷室の家に来ているのかは気になったが、今はそれどころじゃない。
なにより、若菜から結翔が家出をした可能性が高いと言われたから尚更だ。
「村を出たのは間違いないのか?」
氷室がそう尋ねると若菜が頷く。
「はい。村の外で降りたのは間違いなさそうですね。運転手さんが覚えてました」
「村の人間はどのくらいの頻度……というか1日に何人くらい村の外に出るんだ?」
「10人もいないと思いますよ。基本的に用事は全部、村で済ませられますからね。わざわざ村を出る用事がある人は少ないです」
「それより、結翔は? 結翔はどこで降りたの!?」
「えーっと……」
若菜が手帳をペラペラとめくり、「あった」と呟く。
「綫里(いとさと)ですね……って、蓮くん、学校は?」
「そんなの、行ってられないよ!」
「サボりなんてダメよ」
「そういう若菜も仕事はどうした?」
氷室が携帯を見ながらそう言った。
時刻はもう9時を回っている。
「あー、いや……。事件のことが気になっちゃって、休んじゃいました」
「蓮と変わらんだろ。それに蓮の方が気がかりという点では若菜よりも上だ」
その言葉に同調するように、蓮はうんうんと頷く。
「ただ、蓮。学校には連絡を入れておけ。お前まで行方不明なんておことになったらさらに大騒ぎだ」
そう言うと氷室が持っていた携帯を蓮に渡してくる。
「わ、わかった」
学校に電話して、担任を呼び出してもらい事情を説明する。
最初は、捜索は大人たちに任せるように言われたが、役所の人と一緒に探していると言うと渋々折れてくれた。
そんな中、若菜は名前こそ出されなかったものの自分のことを言われて、困った表情を浮かべていた。
「今日だけは許してくれるって」
そう言って氷室に携帯を返す。
「二人とも、明日はちゃんと行けよ」
「……はい」
「はーい」
蓮はそう返事しながらも、もし今日も見つからなかったら明日は自分だけで探そうと考える。
結翔が見つかるまでは学校に行くつもりはない。
というより行く意味がないとさえ思う。
「それで、若菜。西山は綫里という場所で降りたんだな?」
「はい。運転手さんは子供が一人で村から出るなんて珍しいと思ったので、降りる際に『お使いか』と聞いたそうですが、無視されたそうです」
「結翔が?」
村の外に出ることはもちろんのこと、運転手を無視することも、蓮にとっては違和感があった。
結翔はかなり礼儀は正しい。
どこに行っても挨拶はするし、お礼も言う。
蓮が言わなかったら注意してくるくらいだ。
(結翔が無視?)
もしかしたら運転手の言葉が聞こえなかったという可能性もあるが、降りるときに「どうもありがとうございました」と結翔の方が言いそうなくらいである。
(お前、どうしちゃったんだよ)
あの日から、結翔が変になってから、結翔のことがわからなくなる。
蓮が知っている結翔じゃなくなってしまったかのようにさえ思えてくる。
「警察の方は動くのか?」
「家出なら事件性はないので普通なら動かないのですが、小学生ですからね。一応は綫里の管轄に連絡は入れたようです」
「……なら、ほとんど動かないだろうな」
「ですね」
氷室と若菜の話を聞いた蓮は、意味がわからなかった。
「子供が一人いなくなっているのに、警察が調べないなんてことがあるの?」
「今日か、明日に捜索願が出されるだろうから、それからだろうな」
さらにわけのわからないことを言う氷室に、蓮は少し苛立つ。
「なんで!? 結翔は家出なんてしないって、絶対!」
「警察っていうのは仕事をしたがらない集団なんだ」
「ちょっと、氷室さん」
「なら、俺たちで探しに行こう!」
「……どうします?」
「うーん。時間の無駄に終わりそうだがな」
「そんなの、わかんないじゃん!」
「……まあ、他に手掛かりはないし、行くだけ行ってみるか」
こうして蓮は氷室と若菜の3人で綫里に向かうことになったのだった。