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第34話 10月16日:氷室 響也

(こんな早朝に誰だ?)


 氷室の家に来る人間は若菜以外はいない。

 宅配も頼んでいないし、そもそも村には個別の家にまで宅配するサービスがない。


 氷室は若菜と顔を見合わせる。


 そしてゆっくりと玄関のドアを開く。


「……」


 そこにはバツが悪そうに立っている蓮がいた。


(そういえば俺の家に来そうな人間がもう一人いたな)


 来訪者が蓮だとわかり、氷室と若菜は安堵の息を吐く。


「……あの、探偵さん」

「どうせ、一人で調査をしていたんだろ? 学校を休んで」

「え? どうしてわかったの?」


 驚いた顔をする蓮に、氷室は思わず笑ってしまう。


「これでも探偵だからな。ついでにここに来た理由も当ててやろう。交通費がないから、連れてってほしい、だろ?」

「すごい……。なんでもわかるんだね」


 その言葉に若菜が思わず吹き出してしまう。

 蓮にお金がないというのは、若菜が推理したことだ。


「お願いだよ、探偵さん。結翔を探したいんだ」

「なるほど。だが、人にものを頼むにはそれなりの誠意が必要だ」

「誠意?」

「隠していることがあるだろ?」

「……」


 氷室は蓮を家の中に招き入れ、ソファーに座らせる。

 俯いて黙っている蓮に、氷室は諭すように言う。


「祥太郎の死に、西山が関わっているというのはわかる。そして、お前が西山を庇って黙っていることも」


 次々に言い当てられることに驚いてか、蓮は目を大きく見開いた。


「いいか、蓮。前にも言ったが探偵には守秘義務がある。西山が不利になるようなことを聞いたとしても、誰にも話すつもりはない」


 それでもまだ迷っている蓮に、さらに言葉を重ねる。


「隠している情報の中にヒントがあるかもしれない。西山を見つけたいんだろ?」

「……わかった。全部話すよ」


 蓮は決心を固めたようで、あの日からのことを話し始めた。



 ***



 氷室は蓮から、祥太郎が会った日からの話を聞いた。

 初日に秘密基地に、祥太郎と蓮と西山の3人で行ったこと。

 そして、次の日、祥太郎が死体で見つかった日には鳳髄家に行ったこと。

 蓮と西山が一緒に帰り、蓮は5時に家に着いたはずなのに、西山の方は8時まで家に帰っていなかったこと。

 その日から西山が変になってしまったこと。


 おそらくは隠していたことを全て話したのだろうと思う。


「よく話してくれたな」

「……今まで隠しててごめんなさい」


 蓮は話してしまった罪悪感と隠し事がなくなったことの解放感が混じった、複雑な表情をしている。


 そして氷室は蓮の話を聞いて、違和感を覚えた個所があった。


「蓮。祥太郎が死んだ、あの日。お前たちは祥太郎の家に行ったんだよな?」

「う、うん……」

「そのとき、誰か祥太郎の家族に会ったか?」

「え? ……うん、会ったよ。たぶん、おばあちゃんに」


 氷室の脳裏に、鳳髄家に行ったときに会った老婆が浮かぶ。


「変だな」

「……なにがですか?」


 横で話を聞いていた若菜が首を傾げる。


「あの日、なんて連絡が入ったか覚えているか?」

「え? えーっと……」

「祥太郎が学校から帰っていない。学校帰りの途中でいなくなった」

「……あっ!」


 思い出したのか、若菜が声をあげる。


「確かにそう言われました。祥太郎くんが学校から帰ってないって」

「そんなわけないよ! だって、俺と結翔は祥太郎の家に行ったんだから」

「そして、それは祖母も見ている」


 若菜が絶句し、表情を曇らせる。


「……嘘を付いた、ということですか?」

「そうなるな」


 氷室は胸ポケットから手帳とペンを出し、図を書き始める。


「まず、学校が終わり、すぐに祥太郎の家に向かった。大体、3時半くらいか」


 蓮がこくりと頷く。


「そしてそれから1時間くらいして、蓮と西山は帰った。蓮が家に着いたのは5時過ぎくらいか」

「うん。そうだよ」

「それから村に祥太郎が帰っていないと連絡が回ったのは10時過ぎ」


 それを手帳に書いていく。

 そして、5時と書いた箇所と10時と書いた箇所を丸で囲う。

 その間を矢印で結ぶ。


「ここに5時間の空白期間がある。そして、その間に西山が家に帰っている」


 5時間。

 何かをするには十分な時間だ。


 その間で、祥太郎を山へと連れ出し、そして事故と見せかけて殺した。


(そう考えるのが自然か?)


 だがわからないことが多い。

 そして、ここに西山がどう関わってくるのかが検討がつかない。


 祥太郎を山に誘き出すために利用したのだろうかと考える。

 だが、そこまで祥太郎と西山の仲が親密だったとは思えない。


(例えば、西山と祥太郎が秘密基地で落ち合う約束をした。そこを狙われた?)


 その考えが、真相に大きく近づいたような気がした。

 近いと氷室の勘が言っている。


 だが、それでも様々な矛盾点が発生していく。


 考えれば考えるほどわからないことが出てくる。


 そんな状況に、氷室は面白いと感じるのであった。


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