(見つけた)
宮本紘一はスーパーで美弥子を見つけた時、思わずガッツポーズを取った。
そして念のため携帯を取り出して画像を確認する。
(間違いない。これで一千万いただきだ)
宮本の目的は美弥子を見つけた時点で達成した。
だが、少しでも情報を入手して、さらに報酬を引き上げようと考える。
話ができればよし、親密な関係に慣れれば尚よし。
そう思って監視していたが、美弥子は買い物をするわけでもなくただスーパーの中をウロウロとしているだけだった。
(何してるんだ?)
買うもので迷っているようには見えない。
というより、美弥子は商品ではなく、スーパーにいる人間を観察しているように見える。
そして美弥子は村の人間とはあまり仲がよくなさそうだった。
仲がよくないどころか、避けられているような感じだ。
おそらく来て間もない美弥子は、まだ村に馴染めていないのだろう。
こういう小さい村にはよくあることだと、宮本は知っている。
宮本自身も小さな村の出身で、村の風習や決まりが嫌で飛び出してきた。
(村の人間って、よそ者を嫌うんだよな。ホント、クソみてえなやつらだ)
宮本がこの村に来てから聞き込みをしようとしたが、ほぼ全員に無視された。
無視されただけならまだよくて、「何し来た?」と怒鳴られたりもしたくらいだ。
(きっと、あの人も同じような目に遭ってるんだろうな)
数時間後、美弥子がスーパーを出て行ったので、宮本も後を追う。
おそらく美弥子は村の人間に避けられて、孤独だろうと宮本は予想する。
(そういう女は優しくすればコロッといく。チョロいもんだぜ)
美弥子は見たところ30代中盤。
28歳の宮本は、十分、若い男として見られるだろう。
しかも、宮本は見た目も若い。
もしかすると20代前半に見られる可能性もある。
(男も女も、若い奴が好きだよな?)
あとは声をかけるきっかけを探るだけだ。
そう思っていると、美弥子がタクシーに向かって手を上げた。
だが、タクシーは美弥子を無視して走り去っていく。
(村八分状態かよ)
宮本は村人たちに対しては嫌悪感を、美弥子に対しては共感を覚える。
タクシーを無視された美弥子は今度はバスの停留所の方を見た。
しばらく、見たと思ったら、すぐに歩き出してしまう。
どうやらバスも諦めたようだった。
(チャンス)
宮本はゆっくりと美弥子に近付く。
「良ければ送っていきましょうか?」
そう声をかけると美弥子が振り返る。
画像通り、いや、画像以上に美人だった。
画像とは違って不気味で妖艶な印象を受ける。
(好みの女だ)
宮本は心の中で舌なめずりをするが、表情は爽やかな笑顔を浮かべる。
「タクシーに乗りたかったんですよね? 僕、車で来てるんで、送りますよ」
車にさえ乗せてしまえば、成功と言っていい。
あとは少しドライブでもと誘えばいいだけだ。
その後の展開を頭の中でシミュレーションしていた宮本だったが、意外なことに美弥子は背を向けて歩き出す。
「ちょ、ちょっと! どこ行くの?」
慌てて美弥子の腕を掴もうとするが、乱暴に叩き落されてしまう。
「ガキに興味ないの。消えて頂戴」
なんとも冷たい瞳だった。
こちらに興味を示さないどころか、下等な動物を見るような目だ。
(なるほど。一筋縄にはいかないか)
宮本が肩をすくめると、美弥子はふん、と鼻を鳴らして歩き去ってしまった。
「いい女だな。あいつには勿体ない」
とはいえ、一千万を棒に振るつもりはない。
(いただいてから、引き渡すか)
宮本は携帯で電話をかけ始める。
「ああ、もしもし? 俺俺。宮本。あんたが探してた女、たぶん、見つけた。……待てって。まだ確証を得てない。4日……いや、3日くれ。確認するから。……ああ、ああ。それでいい。じゃあ、また連絡する。あと、金はちゃんと用意しておいてくれよ」
そう言って電話を切る。
(3日もあれば余裕だろ)
ニヤリといやらしい笑みを浮かべる宮本だった。
***
その後、宮本は適当に村の中を巡り、夜になると飲み屋街へと向かった。
どこで飲もうかと迷っていると、並んで歩く男女が目に入る。
それは氷室と若菜だった。
「今日はとことんツイてるな」
氷室と若菜が入って行った店に、宮本も入って行く。
2人から少し離れた場所で、様子をうかがいながら酒を飲む。
(若い女はおっさんが好きだったりするからな)
宮本は氷室と若菜の様子を見ながらそう思った。
それから2時間後、2人は店を出る。
ホテルにでも向かうのかと思ったが、氷室は若菜だけタクシーに乗せる。
(ん? そういう仲じゃなかったのか? まあいい)
宮本もすぐにタクシーを捕まえて、乗り込む。
「前のタクシーを追ってくれ」
そうして、若菜の方を追う宮本だった。