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第40話 10月16日:宮本 紘一

(見つけた)


 宮本紘一はスーパーで美弥子を見つけた時、思わずガッツポーズを取った。

 そして念のため携帯を取り出して画像を確認する。


(間違いない。これで一千万いただきだ)


 宮本の目的は美弥子を見つけた時点で達成した。

 だが、少しでも情報を入手して、さらに報酬を引き上げようと考える。


 話ができればよし、親密な関係に慣れれば尚よし。


 そう思って監視していたが、美弥子は買い物をするわけでもなくただスーパーの中をウロウロとしているだけだった。


(何してるんだ?)


 買うもので迷っているようには見えない。

 というより、美弥子は商品ではなく、スーパーにいる人間を観察しているように見える。


 そして美弥子は村の人間とはあまり仲がよくなさそうだった。

 仲がよくないどころか、避けられているような感じだ。


 おそらく来て間もない美弥子は、まだ村に馴染めていないのだろう。

 こういう小さい村にはよくあることだと、宮本は知っている。

 宮本自身も小さな村の出身で、村の風習や決まりが嫌で飛び出してきた。


(村の人間って、よそ者を嫌うんだよな。ホント、クソみてえなやつらだ)


 宮本がこの村に来てから聞き込みをしようとしたが、ほぼ全員に無視された。

 無視されただけならまだよくて、「何し来た?」と怒鳴られたりもしたくらいだ。


(きっと、あの人も同じような目に遭ってるんだろうな)


 数時間後、美弥子がスーパーを出て行ったので、宮本も後を追う。


 おそらく美弥子は村の人間に避けられて、孤独だろうと宮本は予想する。


(そういう女は優しくすればコロッといく。チョロいもんだぜ)


 美弥子は見たところ30代中盤。

 28歳の宮本は、十分、若い男として見られるだろう。

 しかも、宮本は見た目も若い。

 もしかすると20代前半に見られる可能性もある。


(男も女も、若い奴が好きだよな?)


 あとは声をかけるきっかけを探るだけだ。

 そう思っていると、美弥子がタクシーに向かって手を上げた。

 だが、タクシーは美弥子を無視して走り去っていく。


(村八分状態かよ)


 宮本は村人たちに対しては嫌悪感を、美弥子に対しては共感を覚える。


 タクシーを無視された美弥子は今度はバスの停留所の方を見た。

 しばらく、見たと思ったら、すぐに歩き出してしまう。


 どうやらバスも諦めたようだった。


(チャンス)


 宮本はゆっくりと美弥子に近付く。


「良ければ送っていきましょうか?」


 そう声をかけると美弥子が振り返る。

 画像通り、いや、画像以上に美人だった。

 画像とは違って不気味で妖艶な印象を受ける。


(好みの女だ)


 宮本は心の中で舌なめずりをするが、表情は爽やかな笑顔を浮かべる。


「タクシーに乗りたかったんですよね? 僕、車で来てるんで、送りますよ」


 車にさえ乗せてしまえば、成功と言っていい。

 あとは少しドライブでもと誘えばいいだけだ。


 その後の展開を頭の中でシミュレーションしていた宮本だったが、意外なことに美弥子は背を向けて歩き出す。


「ちょ、ちょっと! どこ行くの?」


 慌てて美弥子の腕を掴もうとするが、乱暴に叩き落されてしまう。


「ガキに興味ないの。消えて頂戴」


 なんとも冷たい瞳だった。

 こちらに興味を示さないどころか、下等な動物を見るような目だ。


(なるほど。一筋縄にはいかないか)


 宮本が肩をすくめると、美弥子はふん、と鼻を鳴らして歩き去ってしまった。


「いい女だな。あいつには勿体ない」


 とはいえ、一千万を棒に振るつもりはない。


(いただいてから、引き渡すか)


 宮本は携帯で電話をかけ始める。


「ああ、もしもし? 俺俺。宮本。あんたが探してた女、たぶん、見つけた。……待てって。まだ確証を得てない。4日……いや、3日くれ。確認するから。……ああ、ああ。それでいい。じゃあ、また連絡する。あと、金はちゃんと用意しておいてくれよ」


 そう言って電話を切る。


(3日もあれば余裕だろ)


 ニヤリといやらしい笑みを浮かべる宮本だった。



 ***



 その後、宮本は適当に村の中を巡り、夜になると飲み屋街へと向かった。

 どこで飲もうかと迷っていると、並んで歩く男女が目に入る。


 それは氷室と若菜だった。


「今日はとことんツイてるな」


 氷室と若菜が入って行った店に、宮本も入って行く。


 2人から少し離れた場所で、様子をうかがいながら酒を飲む。


(若い女はおっさんが好きだったりするからな)


 宮本は氷室と若菜の様子を見ながらそう思った。


 それから2時間後、2人は店を出る。

 ホテルにでも向かうのかと思ったが、氷室は若菜だけタクシーに乗せる。


(ん? そういう仲じゃなかったのか? まあいい)


 宮本もすぐにタクシーを捕まえて、乗り込む。


「前のタクシーを追ってくれ」


 そうして、若菜の方を追う宮本だった。

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