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第46話 10月18日_土~10月19日:氷室 響也

「……確かに、そう考えると辻褄は合いますね」


 氷室の推理を聞き、何度も頷く若菜。


「さすが氷室さんです。あそこからここまで行き着くなんて」

「とはいえ……」


 この氷室の推理にはまだ大きな謎が残っている。


「目的がわからない、ですね」

「そうだ」


 なぜ、藤木を探していたのか。

 もし、美弥子との接点がないとするなら『次のターゲット』とも考えられる。

 ただ、そうだとしても、『なぜ藤木なのか』が全くわからない。


「藤木さんも、村では浮いていますからね。もしかしたら浮いた者同士、友達になろうとしたんじゃないですか?」

「美弥子がそんなタマか? 我が道を行くタイプだし、友達なんか煩わしいと考えそうな奴だぞ」

「わかりませんよ、そんなの。ああ見えて、繊細なのかもしれませんし」

「だったら、最初からオープンにするだろ。鳳髄家は村人たちに『関わるな』と釘を打ったくらいだぞ」

「……あ、そうか。確かにそうですね」


 若菜が腕を組んで頭を揺らしている。


「となると、復讐という線も考えられる」

「……復讐ですか? でも、藤木さんは美弥子さんの呼び出しに応じてるんですよね? 復讐されそうな相手のところにホイホイついていきますかね?」

「藤木自身は、恨まれるようなことをしたこと自体に気付いていない場合がある」

「そんなことあるんですか?」

「意外と多い。そもそも、加害者と被害者の立場で、ものの見え方は180度変わることだってある。例えば、イジメにより子供が自殺したとする。だが、イジメた方は『イジメ』だと認識していない。逆に仲良くしていたとさえ思っている。だから、そもそも恨まれているなんて思いもしないんだ」

「そんなわけないと思う反面、すごくありそうな話ですね」

「実際、何度もそんな案件を見てきた」


 加害者は、自分が加害者だと思っていない。

 それどころか被害者だと思っている場合もあった。


「……それじゃ、過去に藤木さんは鳳髄家と関わりのある誰かを死に追いやった。その復讐にこの村にやってきた、ということですか?」

「あくまで一つの可能性だがな」

「仮にそうだとしても、違和感があります」

「……」


 それは氷室も同様に感じている。


「祥太郎くんの死はどう繋がるんですか? 復讐に来たはずなのに、さらに家族を失ってしまっています」

「……しかも、そのことについて、鳳髄家の人間の反応は冷たかった」

「そうですよ。復讐しに来るほど家族思いだとしたら、祥太郎くんの死に、もっと動揺するはずです」


 確かに若菜の言っている部分に氷室も違和感がある。

 だが、そのときある閃きがきた。


「……祥太郎が、本当の家族じゃない、としたら?」

「え?」

「祥太郎は犯人……つまり藤木を誘き出すための餌だとしたらどうだ?」


 だからこそ、村人たちにわざわざ捜索させた。

 山を殺害現場に選んだのも、見つけずらくすることで、捜索の人数を増やすためだった。

 確実に藤木を引っ張り出すために。

 藤木が捜索で外に出てくれば、見つけやすくなる。


 だが、結局はそのときは見つけられなかったのだろう。

 そして、今度は葬儀場を利用した。

 そこでようやく藤木を見つけられた、という流れなのではないだろうか。


 若菜は目を大きく開き、そしてまた考え始めた。


「確かにそれなら繋がりそうな気がします。そうなると不倫の方も……」

「たぶん、杉浦は藤木と繋がる何かがある――」


 若菜がニッと笑う。


「完全に繋がりましたね」

「まだ仮説だけどな」

「じゃあ、次は藤木さんを徹底的に洗うんですね」

「ああ」



 ***



 次の日の朝。


 若菜が氷室の家に来たので、藤木のことを調べるために家を出た時だった。


「また俺をのけ者にして!」


 蓮がむくれた顔をしながら、憤慨していた。


(忘れてた……)


 氷室は内心、頭を抱える。

 完全に西山の捜索のことも忘れていたのだ。


「昨日だって、家に来たのに誰も出ないしさ」

「……若菜は昨日、ずっと家にいたんじゃないのか?」

「すみません。熟睡してたので、インターフォンに気付かなかったんだと思います」

「そんなにか?」

「前の日、徹夜したもので……」


 若菜にしては珍しいなと思う氷室。

 考えてみれば、すぐに寝落ちするほど飲んでなかった気もする。

 疲れが一気にきたということか。


「とにかく、今日は絶対に連れてってもらうからね!」


 蓮が恨めしそうに睨みつけてくる。


「わかった。悪かったよ。捜査が進展しそうで、早く動きたかったんだ」

「え? ホント? 結翔、見つかりそう?」

「いや、まだ西山の居場所に関わるようなことは出てきていない。だが、その糸口は見つけられたと思う」

「わかった! じゃあ、すぐに行こう!」


 態度がコロッと変わり、上機嫌になる蓮。


 西山のことが頭から抜けていた氷室。

 改めて、今回の事件に絡んでいる可能性を踏まえて考えてみる。


(もしかすると、祥太郎が鳳髄家の人間ではないことに関係しているんじゃないか?)


 氷室はこのとき、着実に真相に迫っている手応えを感じていたのだった。

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