「……確かに、そう考えると辻褄は合いますね」
氷室の推理を聞き、何度も頷く若菜。
「さすが氷室さんです。あそこからここまで行き着くなんて」
「とはいえ……」
この氷室の推理にはまだ大きな謎が残っている。
「目的がわからない、ですね」
「そうだ」
なぜ、藤木を探していたのか。
もし、美弥子との接点がないとするなら『次のターゲット』とも考えられる。
ただ、そうだとしても、『なぜ藤木なのか』が全くわからない。
「藤木さんも、村では浮いていますからね。もしかしたら浮いた者同士、友達になろうとしたんじゃないですか?」
「美弥子がそんなタマか? 我が道を行くタイプだし、友達なんか煩わしいと考えそうな奴だぞ」
「わかりませんよ、そんなの。ああ見えて、繊細なのかもしれませんし」
「だったら、最初からオープンにするだろ。鳳髄家は村人たちに『関わるな』と釘を打ったくらいだぞ」
「……あ、そうか。確かにそうですね」
若菜が腕を組んで頭を揺らしている。
「となると、復讐という線も考えられる」
「……復讐ですか? でも、藤木さんは美弥子さんの呼び出しに応じてるんですよね? 復讐されそうな相手のところにホイホイついていきますかね?」
「藤木自身は、恨まれるようなことをしたこと自体に気付いていない場合がある」
「そんなことあるんですか?」
「意外と多い。そもそも、加害者と被害者の立場で、ものの見え方は180度変わることだってある。例えば、イジメにより子供が自殺したとする。だが、イジメた方は『イジメ』だと認識していない。逆に仲良くしていたとさえ思っている。だから、そもそも恨まれているなんて思いもしないんだ」
「そんなわけないと思う反面、すごくありそうな話ですね」
「実際、何度もそんな案件を見てきた」
加害者は、自分が加害者だと思っていない。
それどころか被害者だと思っている場合もあった。
「……それじゃ、過去に藤木さんは鳳髄家と関わりのある誰かを死に追いやった。その復讐にこの村にやってきた、ということですか?」
「あくまで一つの可能性だがな」
「仮にそうだとしても、違和感があります」
「……」
それは氷室も同様に感じている。
「祥太郎くんの死はどう繋がるんですか? 復讐に来たはずなのに、さらに家族を失ってしまっています」
「……しかも、そのことについて、鳳髄家の人間の反応は冷たかった」
「そうですよ。復讐しに来るほど家族思いだとしたら、祥太郎くんの死に、もっと動揺するはずです」
確かに若菜の言っている部分に氷室も違和感がある。
だが、そのときある閃きがきた。
「……祥太郎が、本当の家族じゃない、としたら?」
「え?」
「祥太郎は犯人……つまり藤木を誘き出すための餌だとしたらどうだ?」
だからこそ、村人たちにわざわざ捜索させた。
山を殺害現場に選んだのも、見つけずらくすることで、捜索の人数を増やすためだった。
確実に藤木を引っ張り出すために。
藤木が捜索で外に出てくれば、見つけやすくなる。
だが、結局はそのときは見つけられなかったのだろう。
そして、今度は葬儀場を利用した。
そこでようやく藤木を見つけられた、という流れなのではないだろうか。
若菜は目を大きく開き、そしてまた考え始めた。
「確かにそれなら繋がりそうな気がします。そうなると不倫の方も……」
「たぶん、杉浦は藤木と繋がる何かがある――」
若菜がニッと笑う。
「完全に繋がりましたね」
「まだ仮説だけどな」
「じゃあ、次は藤木さんを徹底的に洗うんですね」
「ああ」
***
次の日の朝。
若菜が氷室の家に来たので、藤木のことを調べるために家を出た時だった。
「また俺をのけ者にして!」
蓮がむくれた顔をしながら、憤慨していた。
(忘れてた……)
氷室は内心、頭を抱える。
完全に西山の捜索のことも忘れていたのだ。
「昨日だって、家に来たのに誰も出ないしさ」
「……若菜は昨日、ずっと家にいたんじゃないのか?」
「すみません。熟睡してたので、インターフォンに気付かなかったんだと思います」
「そんなにか?」
「前の日、徹夜したもので……」
若菜にしては珍しいなと思う氷室。
考えてみれば、すぐに寝落ちするほど飲んでなかった気もする。
疲れが一気にきたということか。
「とにかく、今日は絶対に連れてってもらうからね!」
蓮が恨めしそうに睨みつけてくる。
「わかった。悪かったよ。捜査が進展しそうで、早く動きたかったんだ」
「え? ホント? 結翔、見つかりそう?」
「いや、まだ西山の居場所に関わるようなことは出てきていない。だが、その糸口は見つけられたと思う」
「わかった! じゃあ、すぐに行こう!」
態度がコロッと変わり、上機嫌になる蓮。
西山のことが頭から抜けていた氷室。
改めて、今回の事件に絡んでいる可能性を踏まえて考えてみる。
(もしかすると、祥太郎が鳳髄家の人間ではないことに関係しているんじゃないか?)
氷室はこのとき、着実に真相に迫っている手応えを感じていたのだった。