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第48話 10月23日:嶋村 蓮

 学校の帰り道。

 蓮は道端の石を思い切り蹴飛ばす。


(なんなんだよ、もう!)


 蓮は苛立っていた。


 両親から、学校に行くように言われ、通うようになっている。

 蓮が何かの事件に巻き込まれないかを心配したのと、結翔の母親からも「気持ちは嬉しいけど、これ以上は迷惑になるから」と言われてしまったのだ。


 学校を休むという大義名分がなくなり、サボれば家から出さないなんて言われる可能性も出てくる。

 そうなれば結翔を探すことも、全くできなくなる。


 だが、頼みの綱の探偵の氷室も、最近は目に見えてやる気を失っていた。

 学校帰りに家に寄っても、調査に行ってる様子もなく、家で色々考えると言って出ようともしない。


(一緒に探してくれるって約束したのに!)


 こうなったら、自分で探すしかない。

 そう思ってバス停に向かう。


 そしてバス停に到着してから、意味がないことに気付く。


(バス代なかったんだった)


 バス停のベンチに座り、大きくため息を吐く。


 結翔がいなくなってから1週間以上が経っている。

 氷室は警察が探していると言っていたが、本当かどうかも怪しい。

 なぜなら、警察が本気を出せば、すぐに見つけられるはずだと思っていたからだ。


(誰も探してないなら、俺が探すしかない)


 ただそう思っても、お金がない。


 そう思っていると、バス停にバスが入って来る。

 バスが停まり、後ろのドアが開く。

 そこから1人、バスを降りてくる。


(バレないように入ればいけるかも)


 蓮は身をかがめて、バスの後ろドアに近付く。


(サッと入って、ずっとドアのところに隠れてればバレないはず)


 そう思い、乗り込もうとしたときだった。


 遅れて出てきた男にぶつかって、後ろに倒れてしまう。


「……ごめん。大丈夫?」


 ヨレヨレのスーツに無精髭を生やした40代の男だった。

 目の下にクマがくっきりとあり、疲れ切った顔をしている。

 ぶつかって転んだ蓮に対し、大丈夫かと声をかけるだけで、その場に立ったままだ。


 そして、そうしているうちにバスのドアは閉まり、走り出してしまう。


(あ、行っちゃった……)


 蓮が立ち上がり、次のバスを待とうとベンチの方へ戻ろうとしたときだった。


「君、村の子だよね?」


 男が話しかけてきた。


「……そうだけど」

「この人、見なかった?」


 そう言って男は携帯の画面を見せてきた。

 そこには若そうな男が映っている。


 蓮は見たことがなかったので、首を横に振った。


「そっか。じゃあ、この村じゃないのかな……」


 そう言って携帯を仕舞おうとするが、男は手を止めて、携帯を操作する。


「この人はどう?」


 また携帯の画面を見せてくる。


(……祥太郎のおばさんだ)


 遠くから撮ったような写真だが、確かに写っていたのは美弥子だった。


(なんで祥太郎のおばさんのことを聞いて来るんだろう?)


 脳裏に氷室のことが思い浮かぶ。

 この人も美弥子のことを調べているんだろうか、と何となく思う蓮。


「……この人がどうかしたの?」

「いや、知らないならいいんだ」


 男はガッカリした様子で携帯を内ポケットに仕舞った。


(この人も探偵なのかも)


 そう思った蓮は話すことにした。


「知ってるよ、その人」

「本当に?」

「うん。家も知ってる」

「案内してもらってもいいかな?」

「いいよ」


 蓮は男を連れて、鳳髄の家へと向かった。



 ***



「その人、悪い人なの?」


 男と並んで歩いている中、蓮が尋ねる。


 考えてみると、鳳髄の一家が来てから村の中が変になったと蓮は思っている。

 そして、探偵である氷室も鳳髄家のことを調べていた。


 祥太郎の死と結翔の失踪。


 漠然と蓮は鳳髄家は悪い人間なのではと思うようになった。


「ああ。悪い人だよ」


 男は蓮の方を見ずに呟くように言った。


「……何したの?」

「殺されたんだ」

「え?」

「とても大事な人を」


 無表情で何の感情も見えない。

 恨んでいるようにも見えない。

 ただ事実を喋っている、そんな様相だった。


「警察には言わないの?」

「言っても信じないからね」


 蓮にはどういうことかわからなかった。

 でも、今はそんなことはどうでもよかった。


「……俺の友達もいなくなったんだ。たぶん、その人のせいだと思う」

「ふーん」


 大した興味もなさそうな声だった。

 そんな様子に蓮は落胆する。


 氷室の代わりに一緒に捜査してくれる人を見つけたと思ったが、氷室とは違い、蓮を見ようともしない。

 どう見ても協力してくれるようには見えなかった。


「あ、あのさ……」

「ここ?」

「え?」


 町外れにある、大きな家。

 鳳髄家の前に着いてしまっていた。


「う、うん……」

「ありがとう」


 男は財布を出して、千円札を出して蓮に渡してきた。


「これ、お礼。あと、俺のことは誰にも言わないで欲しい」


 男はそれだけ言うと、鳳髄家の玄関へと向かって行く。


(調べに来たんじゃなくて、会いに来ただけ?)


 あてが外れたと思い、蓮は千円を握りしめ、再びバス停へと向かった。

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