プルルル、プルルル♪
ガラケーの音が鳴り、電話に出た。
「連絡事項をお伝えします、、、。
明日の業務はクールビズのため、
夏服着用の上、朝7時始業、昼3時終業となります、、、。
あの。
いい加減スマホに変えてもらえる?
いちいち君だけ連絡網にすんの、大変なんですけど?
聞いてる?
LINE使えないと不便なの、わかってほしいなあ?」
「はい。はい。聞いておりますよ、ボタンが多くて、文字が小さくて、使えないんですよ。え、ボタンじゃない、アプリだって?どっちでも同じでしょう。」
「えっと、そこから?まあいいでしょう、とにかく、お伝えしましたからね?また度忘れして、遅刻かまして冬服で来ないでくださいね?本当にわかっているのね?じゃあ切るから、くれぐれも間違いないように」
朝からずっと、このような調子だ。
ああ。
なんで生まれてきちゃったんだろう
ガキのころは、家電だったのに。
文明に見放された、哀れな初老の男。
それが自分だ。
きっと、いあ、間違いない。
完全に社内のお荷物だった。
不潔でパソコンも使えず、人ベタで、しかも自慢の体力さえ、ひざを痛めて、窓際でコーヒーを飲む。
いあ、間違い、コンプラだか天ぷらだかで、お茶くみする冴えない初老の男。それが自分だ。
定年までは、あと10年以上ある。
こんな日々が、続くのか。
当然ながら、友人も妻子も、彼女すら、いたことがない。
いわゆる、年齢イコール彼女いない歴、かれこれ51年になろうとしている。
魔法使いになんて。
まあいい。
とにかく、
笑えないジョークだ。
ごう問だ。
本を読むことが、唯一の幸せな時間だった。
それ以外は、すべて苦痛だった。
こんな日々が、一日でも早く、終わってほしいと思っていた。
終わったら、また図書館へ。あるいは、行きつけの本屋へ。そして、本を読んで、すべて忘れよう。
そしてまた、お茶くみする。それしか道がないのだから、、、。