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桜姫とポチの物語~現実世界でしくじったらポチになった話
桜姫とポチの物語~現実世界でしくじったらポチになった話
Nikkunn
異世界ファンタジースローライフ
2025年04月22日
公開日
1.5万字
完結済
ある日。 上司にまたどやされたような日々。 「また爪が伸びてますね!」 「お風呂くらい入ってください!」 「耳の穴が汚いです!」 「何度言ったらわかるんですか?」 不潔でデブで、パソコンも使えず、人ベタで、しかも自慢の体力さえ、ひざを痛めて、窓際でコーヒーを飲む。 いあ、お茶くみする、冴えない初老の男。 そこには絶望しかなかった。 そこへ、謎のメールが届いた。 「なになに?」 あなたの醜態を見つけました、チクられたくなければ屋上にこい、だって? まあいい、どうせひまだ、怒られるのもいつものことだ。 ちょっとした暇つぶしのつもりだった。 そこには猫がいた。 ポチと名乗るそれは、こう告げた。 「あなたのような方を探していました。契約書を交わしましょう。すべてお教えいたしますね!」 それから、現実世界で、痩せたり、iPadが使えたり、懸命な努力を重ね、そこそこにはモテたが、いかんせん初老ゆえ、限界があった。 「やってられねえ!」 契約書を破ったら、文字が光った。 空間はネジ曲がり、視界いっぱい光の渦となった。 気づくと、ポチになっていた。 雄猫に追われ、人に追われ、辿り着いたのは、芝生の中に咲く権太桜だった。 その櫨木を寝床にしていたら、老人が現れた。 「これ、若いの。ここはお前の寝床ではない。早々に立ち去りなさい」 「うるさい!」 櫨木を引っ掻くと、桜の表皮がめくれた。 「やめなさい!わかった、この枝を折って鉢植えにしなさい」 そして桜の妖精に桜姫と名付け、旅をすることになってしまった。

第1話 そこには絶望しかなかった

プルルル、プルルル♪

ガラケーの音が鳴り、電話に出た。

「連絡事項をお伝えします、、、。

明日の業務はクールビズのため、

夏服着用の上、朝7時始業、昼3時終業となります、、、。

あの。

いい加減スマホに変えてもらえる?

いちいち君だけ連絡網にすんの、大変なんですけど?

聞いてる?

LINE使えないと不便なの、わかってほしいなあ?」

「はい。はい。聞いておりますよ、ボタンが多くて、文字が小さくて、使えないんですよ。え、ボタンじゃない、アプリだって?どっちでも同じでしょう。」

「えっと、そこから?まあいいでしょう、とにかく、お伝えしましたからね?また度忘れして、遅刻かまして冬服で来ないでくださいね?本当にわかっているのね?じゃあ切るから、くれぐれも間違いないように」

朝からずっと、このような調子だ。

ああ。

なんで生まれてきちゃったんだろう


ガキのころは、家電だったのに。

文明に見放された、哀れな初老の男。

それが自分だ。

きっと、いあ、間違いない。

完全に社内のお荷物だった。

不潔でパソコンも使えず、人ベタで、しかも自慢の体力さえ、ひざを痛めて、窓際でコーヒーを飲む。

いあ、間違い、コンプラだか天ぷらだかで、お茶くみする冴えない初老の男。それが自分だ。

定年までは、あと10年以上ある。

こんな日々が、続くのか。

当然ながら、友人も妻子も、彼女すら、いたことがない。

いわゆる、年齢イコール彼女いない歴、かれこれ51年になろうとしている。

魔法使いになんて。

まあいい。


とにかく、

笑えないジョークだ。

ごう問だ。

本を読むことが、唯一の幸せな時間だった。

それ以外は、すべて苦痛だった。

こんな日々が、一日でも早く、終わってほしいと思っていた。

終わったら、また図書館へ。あるいは、行きつけの本屋へ。そして、本を読んで、すべて忘れよう。

そしてまた、お茶くみする。それしか道がないのだから、、、。

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