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流星-6



今夜の夜番は宝田。

俺は眠れず缶ビールを飲みながら空を見ていた。なぜか今夜は流れ星が多い。

星に願いなんてもちろんしない、だってもう30越えてるもん。


しかし親父が死んですぐに出産シーズンとなり慌ただしかったが、流れる星を見ていると自然とリラックスできた。


けっして夢とかロマンだけでは食っていけない馬産業。だけど『情熱だけは忘れてはいけない』…親父が言っていたっけ。


基本的に冷めた性格である俺だが、たまに感傷に浸る事がある。けっこうこういう時間が好きだっりする。


頭上にはまた星が流れ……ん?…今のはやけにデカイ星だったな…


今まで見た事がないようなデカく青白い炎のような流星が、俺の目線の先、繁殖馬達の厩舎の真上を流れた。まるで厩舎に降り落ちるかのように。


胸騒ぎというか…少し気になり、厩舎に向かうとファンタジアの馬房の前でひとり興奮している宝田の姿があった。


「生まれましたか!?」


俺の問いに宝田は


「ええ!!ちょっと前に生まれましたんですけど、なかなか立ち上がることができやんかったんです。ほしたらまさに今さっき…ほりゃもうスッと立ちよったんですわ~」


唾を飛ばしながら喋りまくる宝田を横目に、ファンタジアの仔に目をやった。黒鹿毛の牡。ちょっとまわりこんで顔を見た。


俺は驚いた。額に浮かぶ鮮やかな流星。まさにダンステリアの生まれ変わりだった。


なぜか…なぜか胸が締め付けられる気がした。


ダンステリアが生まれた時、俺は中学生だった。ほとんど牧場の手伝いなんてしなかった俺が、親父に無理矢理やらされた初めての夜番で立ち合った最初の命。


ダンステリアがGⅠを勝った翌日、学校で自慢しまくった。


ダンステリアが死んだ日、人生で一番泣いた。



「ぼっちゃん?どうしました?」



俺はファンタジアの仔を抱きしめながら泣いていた。



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