翌朝、ちょっと寝坊した俺はファンタジアの仔の様子を見にいった。
馬房の前で瑤子が最高の笑顔で仔馬を眺めていた。う~ん、やはりかなりの美人だ。笑顔が眩しい。
「おはよう。ちょっと寝坊しちゃったよハハハごめんね~ハハハ」
「………」
なぜ俺には笑顔をくれないのですか?てか俺…一応は社長なんですけど…?
超シカトでその場を去ろうとした瑤子が突然振り返り
「今日、昼、社来、社長、来る。さっき、電話、あった。」
と言った。おまえはインディアンか?そしてなぜそんなに俺を嫌う?
でも…そんなおまえとたまに会話をすると…俺はすごく嬉しい…。たとえインディアンでも…。
約束の昼になり、真っ黒なセンチュリーがうちの自宅兼事務所兼スタッフ寮の前に停車した。
運転手が後部座席のドアを開け、中から社来ファーム社長の吉野氏と長男で次期社長の照文さんが現れた。いつもながら緊張する。
挨拶もそこそこに
「とりあえず馬を見せてもらえるかな?」
吉野氏の言葉に俺は宝田に指示をしファンタジアと仔馬を吉野氏と照文さんの前に連れてこさせた。
仔馬を見た照文さんは熱心に脚や馬体をチェックし、なにやら吉野氏に小声で伝えている。
俺や龍田のようなバカな2代目とは違い、この照文さんは世界ブランドとなった吉野ファームの跡取りである。オーラが違う。
最近までアメリカの牧場で修行されていたそうだ。
俺…正直…ビビってます。
照文さんは宝田に声をかけた。聞かれた宝田は照文さんの質問になにやら答えていた。
「そうですか…宝田さんがそう言うなら間違いないですね」
ん?知り合い?てか宝田…おまえはいったい何者だ?
こちらでは吉野氏と瑤子が話をしている。
よ~し瑤子!女の技を使ってなるだけ高額に引っ張れ!甘えた仔猫の瞳でもっと密着しろ!
「吉野社長、私は思うのですが…ファンタジアの二代前の血統に☆¥$¢£%~中略~☆¥$¢£%ですので、それがサンデーサイレンスのロイヤルチャージャー系を☆¥$¢£%~中略~☆¥$¢£%を配合したいい結果だと思います。」
???あれ???
「さすが瑤子ちゃん。またうちで一緒に仕事したいなぁ」
瑤子?おまえもいったい何者だ?
てか俺独りぼっちだし…
照文さんが吉野氏に対して言った。
「社長。この馬は走りますよ!」
吉野氏も大きく頷いた。
「じゃあ飛田の若社長。今後の事については、また後日。買値の方は奮発するから期待しといてくれよ!」
吉野氏はそう言うと照文さんと共に真っ黒なセンチュリーに乗り込み走り去った。
「じゃあ我々も仕事に戻りましょか~」
宝田と瑤子がその場を去りゆくのを俺は
「ちょっと待て~い!あんた達はいったい何者なんだ?宝田さんはあの照文さんと知り合いみたいだし、瑤子ちゃんはやけに血統詳しいし、てかまた一緒に仕事って吉野社長言ってたけどなんなの!?」
と叫び止めた。
二人は顔を見合わせ
「また夜にでもゆっくり話をしましょ。今は仕事仕事」
宝田の言葉でとりあえず休戦となった。
俺はなにがなんだかわからなくなっていた。
なんだか騙されているような気になってきた。
二人が何者なのか聞くまでは納得できない。
夜になるのが待ち遠しかった。