浦河美幸はこの日のために今日までがんばってきた。
あのマッチレース以来、数々のビッグタイトルを獲てきたのも、ドリームメーカーとの【命を賭けた誓い】が力になり励ましになり自分への戒めになったからだ。
(まだ泣かない…!!)
泣くのはレースが終わってからだ。
今も頬に残るドリームメーカーから受けたキスの感触。脚を引きずりながら最後に自分へ向けられた労い。
生死を賭けた戦いに、凛として挑むドリームメーカーを乗せた馬運車を見送ったあの時の切なさを忘れない。
ゲート手前でドリームメーカーは立ち止まった。
誘導係が無理矢理引っ張る腕を、浦河美幸はムチで叩き払った。
「邪魔しないで!!
大丈夫…時間はかけないわ!!自分で入るから…!!」
浦河美幸のかなり厳しい口調に誘導係はサッと手を引いた。
「フン…
フン…
フギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーァァァァァァァァァ!!!!」
ドリームメーカーの雄叫びが5年ぶりにターフに響き渡った。
世界屈指の騎手に成長した浦河美幸のスイッチが入る。
「さぁ!ドリームメーカー!!行くわよ!!」
ゲートに入ったドリームメーカーと浦河美幸。
カッシャ!
開いたゲートを勢いよく飛び出して行った。