「うぅ……うっ」
あれから数時間。私の気力と体力は限界を超えていた。どうにも身体が思うように動かない。もしかしたら、女から男に変わったからかも? そんなことを思ったりもしたが、リュドヴィックさんにわかる訳もなんてなくて……。
「その程度でへばっていては、『勇者』など程遠いぞ? 立て!」
厳しすぎるリュドヴィックさんの言葉に、私は思わず涙ぐみそうになるが、今の私はもう『前世』の『私』じゃないんだ……。
重たい身体を無理矢理持ち上げ、双剣を構え直す。
それを見たリュドヴィックさんが、少しだけ口角を上げる。カッコいいなぁ。
こういうのが似合う、イケメンになりたいなぁ。
そんな不思議な憧れを抱きつつ、私は必死に鍛錬を行った。
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もう無理。もう動けない。情けなくも、声にすらならないうめき声をあげて、私は倒れ込んだ。
「まぁ、最初に比べたら進歩しただろう。ほら、肩を貸してやるから、休憩室まで歩けよ?」
そう言って、リュドヴィックさんが私の左肩を持ち上げる。ありがたいけど、顔がめちゃくちゃ近い……。こんなに近くまでイケメンの顔なんて見た事ないよ~……。
「顔が赤くないか? お前、熱でも出たか?」
少し心配そうに眉を下げるイケメンもといリュドヴィックさんに見惚れつつ、私は適当に誤魔化す事にした。
「いやこんなに身体を動かしたのは、
「そうか? ならいいが」
リュドヴィックさん肩を貸してもらいながら、休憩室へと向かう。
思ったより休憩室は近くて、助かったと思った。
休憩室は結構広くて、三つの二段ベッドが壁にずらりと並び、真ん中にテーブルと椅子、窓際に長ソファが置かれていた。
私は長ソファの真ん中に座らせてもらった。リュドヴィックさんが離れていくのを見つめていると、リュドヴィックさんがオシャレなポットを手に取った。
「ほら、水を飲め」
コップに水を入れて、リュドヴィックさんが持って来てくれた。この人、めちゃくちゃ良い人だなぁ。イケメンだし……素敵だなぁ。
「あ、ありがとうございます……」
本当は元気よく答えたかったんだけど、出たのは今にも消えそうな声だった。
「お前は、身体と筋力の動かし方を理解していない。……これも記憶喪失の影響か?」
深刻な顔をされて、私は申し訳ない気持ちになって来る。だって、『記憶喪失』っていうのは、嘘だからね。
そんな私の心中を察した訳ではないだろうけど、リュドヴィックさんが話題を変えてくれた。
「ところでお前、『ギフト』について何か覚えていることはないか?」
一気に水を口に含み、大きく喉を鳴らして飲み込むと、私は少し回復した声で答えた。
「えと、いえ。そもそも『ギフト』ってなんなんです、かね?」
リュドヴィックさんは右手を顎につけると、しばらくして口を開いた。
「そうか。『ギフト』というのは、オレも詳しく知っているわけではない。なんでも、通常の者にはない、唯一神『サジタリウス』から授けられる特殊な力のことをそう呼ぶらしい。だが、オレも授かった者を見るのは初めてなのでな? あまり大層なことは言えん」
リュドヴィックさんは私から視線を逸らし、またしても考え込んでしまった。ちくしょう、そんな顔もかっこいいなんて……! さすがにちょっと悔しくなって来たな……。
だって、私は王子様とかに憧れているんだから!
ああいう風に、これからなりたいなぁ。
――せっかくの『転生』なのだから。