なんともいえない沈黙が、私とリュドヴィックさんの間に流れる。え……どうしよう、この空気?
しばらくして、リュドヴィックさんが再び口を開いた。
「とりあえず一週間程度はこの町にいる予定だ。その間、お前をある程度戦えるまで鍛えることにした。覚悟しとけよ?」
そう言って口角を上げるリュドヴィックさんは、本当にズルいと思うんだ。うん。
「はい……」
とりあえず返事だけした私に満足したのか、リュドヴィックさんは静かに告げる。
「そういうわけだから、お前は休憩室で休んでいろ。体力が回復したら、宿屋に案内してやる」
リュドヴィックさんはあっという間に休憩室から出ていってしまった。少しの心細さが私を襲う。
思考がまとまらない中で、私はあることに気づいた。
ゲームの世界に転生したのなら『ステータス表示』とかあるんじゃないの?
そう。私はゲームの世界に転生した……と思う。だって、この身体は……。そんな風に思っていた時だった。またしてもあの声が響いてきた。
《否。ここは『サジタリウス』であって『サジタリウス』に有らず。貴殿は既にこの世界の住人也。よって、そんなものなどない》
え、ないの? 私は少し落胆する。だって、ステータスとか見るの楽しくない?
というか、そんな解説入れてくれるくらいなら『ギフト』のこととか教えてほしいんですけど?
不満しかないけど、その声が答えてくれることはなかった。
「答えてはくれないんだ……」
私は今度こそ疲れた身体を休めるべく、ソファに横向きで寝転がる。すぐに眠気が襲ってきて、気づけば私は深い眠りに落ちていた。
沈んで行く意識。
心地良いかは別としても、不思議な感覚だった。
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――……ないで!
――……い!
――……。
夢の中、聞きなれた声が響いている。
だけど、『私』は……。
答えられない。
だって、もう――。
夢の中で、言葉にならない想いを吐露しながら『前世』の『私』が泣いている。そこそこいい歳なのに泣いている。
でも、仕方ないんだ。
仕方、ないんだよ……。
だから、お願い。
どうか、このまま――。
どんどん離れていく『前世』。悔いがない訳じゃない。未練だってある。
だけど、生まれ変わったのが夢じゃないのなら。
起きても『イグナート』であったなら――。
今度こそ、生き抜きたい。自分の、人生を謳歌したい。
夢を……叶えたい。
憧れを。理想を。叶わなかった全ての事が、『イグナート』でなら出来る気がするんだ。
だから、もう泣かないで?