「うう……」
「どうした?」
リュドヴィックさんが不思議そうに訊いてくるが、私にはそれに答える余裕はなかった。
だって! 男の人と入浴だよ!?
緊張するし、どうしたらいいのかわからない。いや、私今『男』だけどさ! この状況、どうしろと……? さすがに恥ずかしまくるのは気持ち悪いだろうけど、マジマジと見るのもそれはそれで気持ち悪いと思うし……どっちにしろダメじゃん……。
脳内パニックを起こす私の横でリュドヴィックさんが団員服を脱ぎながら、不思議そうな顔で私を見てくる。
「どうしたお前?」
いや男性と入るのなんて家族以外と? それもいい歳こいてないんですよ~! とか言える訳もないので、私は全力で羞恥心を捨てた。
「いえ、また湯浴み場に入れるなんて、嬉しいな〜って思ったんですよ。私、どうやら気に入ったみたいです!」
もちろん嘘。私の内心はパニックが収まっていない。だけど、リュドヴィックさんは納得してくれたらしい。
「そうか。なら良かった」
一言呟くと脱ぐのを再開してくれた。私は、なるべく不自然にならない範囲で見ないようにして、同じく団員服を脱ぐ。
あ、これ……脱ぐのも結構慣れないと難しいな……。
私達は腰にタオルを巻き、湯浴み場に入って行った。
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中に入った私を絶望が襲う。というのも、この時間は割と人がいるらしい。何人もの男の人達が、お湯に浸かったり、身体を洗ったりしていた。
「お前、さっきから変だぞ?」
「いや、はは。私、どうやら湯浴み場は気に入っても、多人数で入るのにはまだ慣れてはいないようでして……」
自分が『男』であることに慣れていないとは言えないので、『湯浴み場に大勢で入る』のに慣れていない風を装った。……装えたはずだ。
「そうなのか? まぁ、記憶喪失でもあるし慣れない場所ではそれも仕方ないか?」
なんとか納得してくれたリュドヴィックさんは、さっさと先を行き、湯に浸かり私を手招きして呼んでくる。
周りをなるべく見ないようにしながら、リュドヴィックさんの横に入る。相変わらず、薬湯? は気持ち良い。
「そういえば、イグナート。お前、何か手がかりは思い出したりしたのか?」
リュドヴィックさんが濡れた手で髪をかき上げる。イケメンは様になりますなぁ! くっそ〜!
そんなことより、質問に答えないと。私は深刻そうな顔をし答える。
「いえ、まだなにも……まぁ、昨日の今日ですからね……」
あえて今はまだわかりません。みたいな空気を出す。
「それもそうだな」
割とすぐになんでも納得してくれるリュドヴィックさんって結構素直?
そんな事を考えながら、あることに気づいた。私は大衆浴場では湯船に浸かってから、身体を洗う派だったから自然とそうしたけど、リュドヴィックさんもそうなのかな? スムーズにお湯に入って行ったよ?
そんな些細な疑問を訊ける訳もなく、私達は静かにお湯に浸かり……しばらくして、私的最後の難関、身体を洗うことになった。
自分の身体を洗うのにもまだ慣れてないのに、他人が洗っているところとか、緊張するじゃん!?
そうして、私はなるべくリュドヴィックさんや他の周りの人を見ないようにして、自分の身体を洗うことだけに専念。なんとか、この難関を乗り切ったのだった。