「ふぅ~……はぁ……」
なんでこんな構造にしたんですか……?
心の中で文句を言いつつ、私とリュドヴィックさんは最上階まで登りきった。ちなみに、予想通り五階建てだった。
「息を整えろ。……時間はやる」
素っ気ないながらも、そう言ってもらえて助かった〜! さすがに息切れしながら偉い人に会うのは、気が引けるなんてレベルじゃないからね……。
深呼吸して数分。
ようやく息が整った私を確認すると、リュドヴィックさんが目の前の荘厳な扉をノックする。
「どうぞ、お入りください」
低音ボイスが響いてきた。あれ? アルベリク団長さんってこんなに声、低くなかったような?
「失礼致します」
私の疑問なんて気にせずリュドヴィックさんが中に入って行くので、慌てて私も中に入る。
入るなり、リュドヴィックさんが神官様の時と同じ挨拶をしたので、私もマネをした。
中を見ると二人の人物がいた。
浅黒い肌に黒髪をオールバックにした、ダンディなナイスミドルが目に入る。秘書さんかな? 執務机っていうの? その横に立っていてもう一人は、一週間前にポーリス支部の通信室で見たアルベリク団長さんだ。椅子に座って、両手を組んで顎を乗せている。
二人とも、視線を私達にやったまま沈黙していた。その気まずさに私が戸惑っていていると、リュドヴィックさんが口を開いた。
「リュドヴィック・エアラ、僭越ながらただいま帰還致しました。……早速報告をさせて頂きます」
「うん。おかえりなさい、リュドヴィック卿。お願いするよ」
穏やかで心地の良いアルベリク団長さんの声が響く。
うわぁ……本当に美しい顔立ちだなぁ……。
「はい。こちらが、イグナート・アウストラリスです。一週間程前に報告させて頂きました通り、『勇者』の可能性があり、また『ギフト』を授かっていることまでは分かっております」
「うん。改めて報告ありがとう。何か進展はあったのかな?」
優しくも見定めるような目で、アルベリク団長さんが見てくる。
「記憶喪失については未だわからず……。潜在的な身体能力自体は高いものの、戦闘に関しては素人同然でありました。今は幾分かマシになりましたが……」
ふとアルベリク団長さんの目が鋭くなった。え? 私、何かしました……?
「そうかい。じゃあ、イグナート卿、改めて君を我がルクバト聖騎士団員として歓迎しよう。リュドヴィック卿は、引き続き彼の教育を頼んでもいいかな?」
イグナート卿という響きに、自然と背筋が伸びる。っていうか、『卿』って団員なら誰にでもつけていいものなの……?
「あ、はい。歓迎ありがとうございます! よろしくお願い致します! アルベリク……団長!」
「承知致しました、教育はお任せを。それでは……イグナート卿には退出して頂いてもよろしいですか?」
「うん、大丈夫だよ。イグナート卿、来てくれてありがとう。退出していいよ。あ、外に君とほぼ同期の者がいるから、彼に案内をしてもらってくれるかな?」
聴き惚れるような声で言われて、困惑しながらも私はアルベリク団長と横のナイスミドルさんにリュドヴィックさんへ挨拶をして、部屋を出て行った。