部屋を退出してすぐ……待機していたらしい、水色の短く切りそろえられた髪に、水色の瞳をした童顔のイケメンと目が合った。
「おっ、出てきたな! 俺は『オクタヴィアン・クレヴリー』! 今日、お前を案内してやれって言われてんだ! よろしくな!」
明るく元気な声に、私も先程までの緊張が解けて少しだけ笑顔になる。
「はじめまして! 私は……」
「イグナート・アウストラリスだろ? 知ってるぜ! お前、もう有名人だからな!」
え? そうなの!?
戸惑う私に、人懐っこい笑顔でオクタヴィアン君が言う。
「そうビビるなって! あ、俺のことは『オクト』って呼んでくれよな?」
「あ、うん! よろしくね、オクタヴィ……オクト君!」
そう言って、私とオクト君は握手を交わした。
あ、なんだろう。この感じ……いいなぁ。それに、オクト君はなんか、可愛い系イケメン? 子犬系って言葉が似合いそうな感じだ。
呑気な思考を巡らせていると、オクト君が不思議そうに尋ねて来た。
「ん? どうしたんだ?」
「あ、いや……こういうの慣れていない……気がしてさ! だから嬉しくて!」
「そっか……お前、記憶喪失なんだもんな。ま、その内思い出せるって! 気楽に行こうぜ? イグナート!」
励ましは嬉しいけど、記憶喪失じゃないんだよな……。
罪悪感を感じながら、私はオクト君に改めて本部内を案内してもらうことにした。
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「んで、ここが食堂な?」
最上階から順に一部屋づつ案内してもらい、最後に一階の右側にある食堂までやって来た。
「うわぁ〜……広くて豪華!」
黒レンガ造りなのは変わらないのに、街並みや上階とは違う綺麗さとシャンデリアや調度品の数々に、思わず目を奪われる。
「な、すげぇだろ? ここは癒し重視だから、より豪華なわけ!」
癒し……かどうかはわからないけど、豪華だけれど確かに落ち着く空間だった。
「うん、凄いね……!」
私の返事に満足したのか、オクト君がこう提案をしてきてくれた。
「せっかくだし、なんか食ってこうぜ?」
オクト君が食堂入口からすぐ近くのカウンターに向かっていく。私も後を追い、見よう見まねでトレーを取ったところで気づく。
……私、お金持ってなくない?
「あの、オクト君! 私、お金が……」
そう素直に告げると。オクト君が笑顔で答えた。
「ああ、だろうな! だから、ここは俺の奢りな?」
「えっ……いいの、かい?」
「おう! 任せとけ!」
こうして私は、オクト君に奢ってもらうことになったのだった。