対人戦を始めて一時間。私は何度も、オクト君に負けながらも立ち向かって行き、徐々にだけど感覚を掴んで……きたかな?
といっても、身体はボロボロで関節の至る所と木剣でやられたところが痛い。すごく痛い。
「はぁ……はぁ……」
息も既に絶え絶えだ。そんな私を見て、オクト君がリュドヴィックさんに向けて声をかける。
「リュドヴィック卿! 今日はもう……」
「ああ。これ以上はさすがにな。……切り上げていいぞ」
そう言われ、私は思わず脱力してしまう。慌ててオクト君が近寄って来てくれて、支えてくれた。
「おっと、大丈夫か? 慣れない対人戦にしちゃ、よくやったぜお前! お疲れさん!」
「あ、ありがとう……」
力なくそう言うと、私は身体を起こし、対人戦用スペースから出て休憩室に案内された。
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本部の休憩室も、他と違わず広くて綺麗だった。
ベッドがない変わりに、複数のソファや丸テーブルに椅子が置かれていて、それがくつろげる空間となっていた。
そのソファの一つに、私は腰掛けさせてもらう。
「ふぅ~……」
思わず息が漏れてしまった。あ、恥ずかしい。
「ふは! マジでお疲れさん!」
オクト君が吹き出しながら、私の両肩を叩く。ちょ、痛いから!
いつの間にやらリュドヴィックさんが、二人分のコップを持って来てくれた。
「あ、リュドヴィック卿! ありがとうございます! すみません!」
「ありがとうございます……いつもすみません」
「いや、気にするな。二人とも少ししたら、今日はもう部屋に帰って休め」
リュドヴィックさんなりの気遣いなのだろう。私達は素直に頷き、コップを受け取る。中身はお水のようだ。
私はお水をグビグビと一気に飲み干す。どうやら、ものすごく喉が乾いていたらしい。水分が身体に行き渡る感覚がした。
「お、いい飲みっぷりだな!」
オクト君もそう言うと、ゴクゴクとお水を飲む。
二人して飲み干すと、ソファにオクト君も座る。っていうか、立ったまま飲んでたね……。流石にお行儀悪いよね……?
「オレは本部に戻る。オクタヴィアン卿、後は頼んだぞ?」
「了解です!」
あれだけやったのに、元気そうなオクト君にちょっとだけ嫉妬心が芽生えるのを感じた。
私達の様子を確認して、リュドヴィックさんが一言告げた。
「それじゃ、失礼する」
あっという間に去って行くリュドヴィックさん。残された私とオクト君は、しばらく沈黙する。
き、気まずい!
「うし、まずは部屋に戻るか! ってかよ、今気づいたけど、お前って着替えあんのか? 手荷物なかったよな?」
言われて気づいた。そういえばポーリスでは部屋着を借りていて、あの初期装備の服は……確かベルちゃんに預けたままだった!
「あ〜! 着替えないや! どうしよう!?」
頭を抱える私に、オクト君が微笑みながらこう提案してきてくれた。
「んじゃ、ランベールさんに聞いてみようぜ? あの人なら、なんとかしてくれるっしょ!」
なんだか丸投げな気もするけど、大丈夫なんだろうか?
不安げな私をよそに、オクト君は笑顔で尋ねてくる。
「そろそろ立てるか? 寮に戻ろうぜ!」
言われ、私は重たい身体を引きずりながらオクト君と共に寮へ戻って行った。