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第42話 シカ村

「それでは、シカ村の事件についてお話させて頂きます。……あれは数日前のこと、我々アイナラミの者とシカ村の者とで交流がありましてな? その日も、シカ村へ取引に行ったのですが……」


 町長さんがそこで言葉を切る。その目は悲しみに満ち溢れているように見えた。

 絞り出すような声で話を続ける。


「我々が着いた頃……村は既に壊滅状態でした。生き残りに関しては残念ながら……」


 ……そんな……。


 あまりのショックに、私は言葉を失った。

 えっ待ってよ……ゴブリンって雑魚魔物なんじゃないの? そんなに被害を出す存在なの?


 唐突な現実を突き付けられて、私は息を飲んだ。


「イグナート、大丈夫かよ?」


 心配そうなオクト君の声に、私は力なく頷くしかない。


「それで町長殿。ゴブリンの数や巣など、何かわかっていることはございませんか?」


 リュドヴィックさんが続きを促す。


「そうですね……おそらくゴブリンは群れ……それもかなりの数かと。それ以上は……」


「ふむ、かなりの数であるか。であるなら、巣穴の探索は現場に行った方が良いであるな」


 アンドレアスさんはそう言うと立ち上がり、リュドヴィックさんの方へ向き直る。


「リュドヴィック殿、共同任務であるからして……これよりシカ村に行こうと思うがよろしいであるか?」


「ええ、自分も同意見でしたので」


 リュドヴィックさんがそう答えると、アンドレアスさんは静かに告げた。


「では諸君、いざシカ村へ向かうのである!」


 ****


「な……!?」


 私はそれ以外の言葉が出てこず、思わずその場に立ち尽くしかなかった。


 のどかであっただろう風景は破壊しつくされていた。焼け焦げた屋根、壊された扉、荒らされた室内……そして、逃げ惑ったであろう村人達の血痕。


 そのあまりの衝撃さに、私は頭をガツンと殴られたような気がした。


 今まで何を見ていた? 呑気なことばかり考えて……!! ここで生きている人達のことなんて、なんにも考えてなくて!!


 今までの自分を殴りたくなると同時に、私の中で『何か』が溢れそうになる。


「イグナート!! おい!」


 ハッと我に帰ると、辛そうな顔をしたオクト君が私の右肩を掴んでいた。


「ご遺体の埋葬はアイナラミの人達がやってくれたらしいからよ、俺達はリュドヴィック卿やアンドレアス魔道士殿達と一緒に、ゴブリン共の巣穴の手がかりを探すぞ!」


「うん……了解」


 そう言うとオクト君は私から離れて行った。私は……溢れそうな『何か』を抑えながら手がかりを探すことにした。


 ……一軒一軒回る事に、その惨状を脳が刻み込んで行く。壊れた玩具、食べかけのご飯……人の血、血、血……。

 私が三人家族の家らしき中へ入り、探索していた時だった。


「ギャギャ!!」


 瞬間、私の背後から聞き慣れない声がした。振り向くとそこには、テレビやゲームで観たビジュアルよりもはるかに気味の悪いゴブリンがいた。


 ゴブリンは挑発するかのように飛び跳ねて……私に向けて短剣を振りかざして来た。


「こっの!」


 慌てて回避すると、ゴブリンは不敵な笑みを浮かべて更に攻撃を仕掛けてくる。私は双剣を構えゴブリンの斬撃を受け止めると、力任せにゴブリンを壁に叩きつけた。


「ギャ!?」


 耳障りな声に苛立ちながら、攻撃を加えようとした瞬間だった。


「ギャギャギャ!!」


「ギャギャ!! ギャギャ!!」


 二匹のゴブリンがどこからともなく現れた。


「くっ……そぉ!!」


 私一人じゃ分が悪い!!


「イグナー……ゴブリン!?」


 オクト君の声が聞こえて来た。


「オクト君!!」


「コイツら、まだいやがったのか!」


 オクト君も長剣を抜くと、ゴブリン達と睨み合う。

 私が壁に押し付けていたゴブリンが、懐から笛みたいな物を取り出して……吹いた。


「ギャギャギャ!!」


 その音を聴いて、ゴブリン達が踊り出す。


「なんだってんだ!?」


 私達に緊張が走る。近い位置からベニーさんかダニーさん、どっちかの声が響いて来た。


「皆様、大変です! ゴブリン達の群れが接近中!! 繰り返します! ゴブリン達の群れが接近中!! その数、およそ……ひゃ、百です!!」


 ……やられた。

 その事に気づいた私達は、異様な緊張感に包まれるのだった。

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