とりあえず目前の三匹のゴブリンをどうにかすべく、私とオクト君は互いに目配せする。不思議と戦うことへの恐怖心はなかった。いや、それどころじゃないというのが正しいか……。
とにかく私は、押さえつけていたゴブリンを乱暴に左へ、力任せに放り投げた。
衝撃でゴブリンがよろけた瞬間……首をはねた。
「ギャギャ!!」
「ギャー!」
残り二匹のゴブリンが、私に向かってくるのを、オクト君が手にしている盾で防いでくれた。
「ギャギャギャ!!」
「ギャギャ!!」
二匹のゴブリンはニヤリと笑うと、私に背を向けて屋外へと走りだした。
「どこへ行く……! 群れと合流するつもりか!?」
オクト君はそう言うと私に声をかける。
「イグナート! とりあえずリュドヴィック卿達と合流しようぜ!!」
「あ……う、了解」
私が倒したゴブリンの亡骸を見る。
……本当に、私が……やっちゃったんだ……。
今更になって手が震えてきた。
なんだか動悸もしてきたような……?
「イグナート! 何してんだ!! 急ぐぞ!」
オクト君の声でハッとする。そうだ、そんな場合じゃない!!
私も急いで外に出ると、ドドドドという音が鳴り響いている。
「この音は!?」
私が驚いていると、既に合流していたらしい、リュドヴィックさんとアンドレアスさん達が武器を構え、音のする方角を向いていた。
「二人とも無事だな!? お前達も覚悟しろ。ゴブリンの群れが来るぞ!!」
リュドヴィックさんの声で、私とオクト君も武器を構え直す。
……音がどんどん近づいて来て……。
現れたのは、たくさんのゴブリン達と……板に括り付けられた女の人や子供達だった。
「は……?」
「なんつーことしやがるんだ!?」
「所謂、肉壁というヤツであるな」
言葉を失う私と憤るオクト君に、アンドレアスさんが冷静に告げる。
「アンドレアス殿、魔法でゴブリン達を眠らせたりすることは可能ですか?」
リュドヴィックさんがそう訊くと、アンドレアスさんが答える。
「可能であるが、時間がかかるのである。この距離では間に合わないであるな」
「そうですか。では、何か手を考えなければ……厄介にも程がある」
一見、冷静そうに見えたリュドヴィックさんだったけれど、よく見たらいつもより表情が強ばっているのがわかった。
……ああ。これ……『怒っている』んだな……。
その怒りを肌で感じた瞬間だった。私の中で、あの時感じた『何か』が身体中に伝播してくる。
そうか。そうなんだ。私、いや……俺は……『怒っている』。
理不尽に奪われた日常、戻らない生命。そして……あの穢らわしいゴブリン共に……!!
自覚した。理解した。『怒り』を。
「おい、おい! ……イグナート?」
誰かの声が聞こえたが、もうその瞬間には俺の怒りは溢れていた。
「【