目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第44話 【怒焔の矢】

「【怒焔の矢イグナイト・アロー】……!」


 俺がそう唱えた瞬間、両腕から焔の矢が形成される。


「な!? まさか『ギフト』か!?」


 また誰かが何か言ったが、俺には関係ない。

 とにかく今は……アイツらを焼き殺す!!


 俺は形成した矢をゴブリン共に向けて放った。


「何してんだよ!? 人質……が?」


 また誰かが言ってんな……大丈夫だ。俺の矢は標的しか焼かねぇからな……!!


「焼けろ。焼けろ。焼けて。焼けて。焼き殺されろ……」


 俺はブツブツと呟きながら、ゴブリン共に接近していく。

 ヤツらは俺にビビったのか散り散りになろうとしやがる。


 ……させるか!

 奪った生命の分を償え!

 壊した全てのもの達に詫びろ!!


 俺はヤツらが逃げないように、【怒焔の矢】を囲むように放つ。

 周りは焼けず、ただその焔に当たったゴブリン共だけがダメージを負う。


 肉の焼ける臭いがする。酷い悪臭だ。だが、それがいい。


 焼けろ。焼ケロ。ヤケロ。


 コバエみたいに俺に向かってくるゴブリン共もいるが、全部焼いた。


 焼いて。焼いて。焼いて。焼いて。焼イテ。ヤイテ。


 全てを焼き殺した後も、灰になるまで焼いた。それでも足りなくて、もっと焼こうとしたら……首あたりに衝撃を受けて……俺は意識を失った。


 ****


「ううん?」


 ……あれ? 私……?


 気づけば私は、何時ぞやのような見知らぬ天井を見つめていた。


「お? 気がついたか~! はぁ~……全く! 心配かけんなよぉ〜!!」


 声のする方へ顔を向けると、オクト君が少しホッとしたような顔をして椅子に座っていた。


「あ、あの、私?」


「お前、なんも覚えてねぇのか? やばかったんだぜ? つか、両腕痛くねぇか? 大丈夫か?」


 両腕? 言われて見ればなんか違和感……が!?


「いだぁ!?」


 両腕が重い! そして筋肉痛以上の痛み!!


「まぁだろうな! お前、両腕から火出してたんだぜ!! それもなんか……矢みたいな!」


 ……え? なにそれ怖いんだけど!?


「矢? あ、というか任務はどうなったのかな?」


 私が訊くとオクト君は静かに答えてくれた。


「それなら、お前の力でゴブリンは全滅。周囲に被害もねぇしで……いや、まぁ、お前が暴れまくったこと以外は問題なかったぜ?」


「う……スミマセンデシタ」


 そんなに酷い暴走してたの? やだ、記憶に全然ないよ〜!


 そんなやり取りをしていると、扉の開く音がした。

 そこで私は、ようやくここがどこかの一室であることに気づいた。


「オクタヴィアン卿、イグナートは?」


 この声はリュドヴィックさんか……迷惑かけたんだろうな……。


「ああ、リュドヴィック卿! いいタイミングで!」


「リュドヴィックさん。すみませんでした……」


「起きたのか!?」


 早足で私に近づいてくるのがわかる。リュドヴィックさんは私の顔を確認すると、渋い表情をして口を開いた・


「身体に異常は……ありそうだな……」


「はい。両腕が痛いです……そして身体中だるいです……」


「そうか。イグナート、ここはアイナラミにある病院だ。……お前は一週間眠っていた」


 えぇ!? 一週間!?


「そう、ですか……」


 答えた瞬間、お腹がものすごい音で鳴った。


「まぁ一週間も、なんも食ってなきゃそうだわな」


 オクト君のフォローが痛い……。


「とにかく食事だな。オレが手配してくるから、引き続きオクタヴィアン卿、イグナートを頼む」


「了解です!!」


 そう言ってリュドヴィックさんが部屋を出ようとしてから、もう一度私の方へ向き直った。


「イグナート」


「はい……」


「お前、回復したら始末書と……それから一ヶ月の謹慎処分だ」


 やっぱり処分か……。

 私は妙な気分になりながら、静かに罰を受け入れる事にした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?