目覚めてから五日間で、私は退院出来た。
その間に、アンドレアスさん達が一足先にアスケラへ戻ったこと、人質にされていた人々が全員無事だったことなどを聞き、私は安心したのと同時に強い恐怖心を抱いた。……自分自身に対して。
オクト君とリュドヴィックさんから聞いた自分の所業が……恐ろしかったのだ。
私の『ギフト』……【
それに……。
「これ……治らなかったな……」
私の両腕の前腕には、赤い矢印のような痣? 紋様? が浮かんでいるのだ。
私が寝ている間も、治療してくれたらしいのだけど、効果はなかったそうだ。
つまり、これから一生このわけのわからない痣だかなんだかと付き合わなければならないわけで。
「はぁ……」
私はため息を吐くと、寮の部屋で読んでいた本を綴じる。
退院してすぐにルクバトに戻った私は、始末書を書いて、謹慎処分で寮の部屋にいることへなった。
幸いにも、オクト君が筋トレ器具を貸してくれたため、身体はある程度動かせるし、寮内にいる限りは自由だから、ちょっとだけ気が楽ではある。
あるけど……。
「これからどうなるんだろう……?」
オクト君は『気にするな』と言ってくれた。リュドヴィックさんは『力を制御出来るようになればいいだけだ』と言ってくれた。
……二人は優しいからそうフォローしてくれるけど……正直、この謹慎が明けたらどうなるのか、全然予想がつかなくて怖い。騎士団を追い出されたり……なんかはないと思いたいけど……。
そんなことを考えていると、部屋の扉をノックする音がする。
「はい?」
私が返事をすると、外から以外な人の声がした。
「イグナート卿、ボクです。ランベールですよ〜」
「ランベールさん?」
「はい。謹慎中との事ですので、せっかくですしお茶でもいかがでしょうか?」
ランベールさんなりの気遣いなのだろう。だけど……。
「……今、そういう気分じゃないので」
「案外気分転換になるかも知れませんよ?」
……それは、そうかもしれないけど……。
しばらく考えて、私はその申し出を受けることにした。
「わかりました。今準備しますので、待っていてください」
「わかりました。ゆっくりで構いませんのでね?」
「はい……」
こうして私はランベールさんとお茶をすることになった。
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「いやぁ、こうしてイグナート卿とお話出来るのは久方ぶりですね」
「そうですね。任務に出ていたし、謹慎にもすぐになりましたから」
「そういえば、新しい服を買われたのですね? お似合いですよ」
今の私の服装は、青のワイシャツに白のパンツに藍色のブーツだ。
ランベールさんは優しく微笑みながら会話を続けてくれた。
「お身体のお加減はいかがですか? 任務中に倒れられたとお聞きしましたが」
「なんとか大丈夫です……ありがとうございます……」
申し訳なさそうに答える私に、ランベールさんが優しくフォローをいれてくれた。
「お茶菓子等用意いたしましたので、食べれば少しは気分が晴れるかもしれませんよ? 甘い物は癒し効果がありますのでね」
「は、はぁ……」
甘い物は好きだけれど、今はそんな気分になれなかった。でも、せっかくだからと口を付ける。……美味しい。
ゆっくりと食べていると、ランベールさんが話題を変えた。
「ところで、サジタリウスには『アウストラリス山』という山があるのはご存知ですか?」
そう言われ、私は思わず目を見開いてしまう。
「え、そんな山が?」
私の反応を見ながらランベールさんが続ける。
「ええ。一年中雪が振る山でしてね? そこにはなんでも『全てを見た魔女』が住んでいるらしいですよ?」
その声色には、どこか懐かしんでいるものが含まれている気がしたけれど……話の続きが気になって、気づけば私は続きを待っていた。
ランベールさんの語りの続きを――