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第62話 勇者の定義

「失礼ながら……一人の身体に二人分の魔力なんて、その……通常はありえません……よね?」


 耐えきれなかったのだろう。オクト君が困惑しながらそう訊くと、アンドレアスさんは深く頷いた。


「そうである。故に、これこそが『勇者』足るものの力の一端なのではないかと、考えているのである」


 そう言って私の方へ視線をやる。


「まあ、そもそも『勇者』とは、何を持って定義するのかにもよるのであるが……」


 その言葉で、私はハッとする。そもそも、この世界での『勇者』ってなんなんだろう?

 今まで、ここの生活に必死で考えてもなかったよ……。


「あ、の!」


 私が思い切って声を上げると、みんなの視線が集まる。


「その……そもそも『勇者』ってなんなんですか?」


 私の問いに、オクト君はポカンとし、リュドヴィックさんとブリアック卿は顔を見合わせ、アンドレアスさんが額に手を当てていた。


「リュドヴィック殿? 彼に『勇者』について話していなかったのであるか?」


 そうアンドレアスさんに言われて、リュドヴィックさんが申し訳なさそうに答える。


「はい……。当たり前の認識すぎて失念しておりました。こちらの過失です」


「はぁ……ここで責めていても仕方ないのである。我が代表して説明するである」


 アンドレアスさんがため息混じりにそう言って、私の方を見る。


「よいであるか? 『勇者』という者には二種類ある。一つはこの世界において多大な功績を残した者。そしてもう一つが……『サジタリウス』による『加護』を受けた者である。前者は『啓示』こそ受けたが『ギフト』等授かっていない聖女ゼナイドが当てはまり、後者が『加護』を受けしイグナート殿が当てはまるな」


 な、なるほど?


「つまり、『勇者』には二種類あって私は後者ということ……ですか?」


 私の答えにアンドレアスさんが頷く。


「うぬ。故に『勇者』とは歴史の中において、割合多く出現しているのである。ただ……『ギフト』持ちは中々現れず、大変希少であるな」


「そ、そうなんですか……?」


 あれ? じゃあなんで……。


「じゃあなんで、私が『ギフト』持ちだってわかったんですか?」


 私の更なる言葉に、みんなが沈黙する。えっ、なに? 怖いんですけど……?


 しばらくして、リュドヴィックさんが口を開いた。


「『ギフト』持ちかどうかの判別は、神官になる者にしか伝授されなくてな? オレも詳細まではわからないが……少なくとも普通の状態ではない……のだろう」


 だろうって……そんな曖昧な……。


「とにかく、そういう訳であるからして……。話を戻してよいな?」


 アンドレアスさんにそう言われ、私はただ頷くしかなかった。

 正直、そんな曖昧な存在である自分――私はなんなのだろうか?

 そんな疑問にぶつかるのだった。

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