「失礼ながら……一人の身体に二人分の魔力なんて、その……通常はありえません……よね?」
耐えきれなかったのだろう。オクト君が困惑しながらそう訊くと、アンドレアスさんは深く頷いた。
「そうである。故に、これこそが『勇者』足るものの力の一端なのではないかと、考えているのである」
そう言って私の方へ視線をやる。
「まあ、そもそも『勇者』とは、何を持って定義するのかにもよるのであるが……」
その言葉で、私はハッとする。そもそも、この世界での『勇者』ってなんなんだろう?
今まで、ここの生活に必死で考えてもなかったよ……。
「あ、の!」
私が思い切って声を上げると、みんなの視線が集まる。
「その……そもそも『勇者』ってなんなんですか?」
私の問いに、オクト君はポカンとし、リュドヴィックさんとブリアック卿は顔を見合わせ、アンドレアスさんが額に手を当てていた。
「リュドヴィック殿? 彼に『勇者』について話していなかったのであるか?」
そうアンドレアスさんに言われて、リュドヴィックさんが申し訳なさそうに答える。
「はい……。当たり前の認識すぎて失念しておりました。こちらの過失です」
「はぁ……ここで責めていても仕方ないのである。我が代表して説明するである」
アンドレアスさんがため息混じりにそう言って、私の方を見る。
「よいであるか? 『勇者』という者には二種類ある。一つはこの世界において多大な功績を残した者。そしてもう一つが……『サジタリウス』による『加護』を受けた者である。前者は『啓示』こそ受けたが『ギフト』等授かっていない聖女ゼナイドが当てはまり、後者が『加護』を受けしイグナート殿が当てはまるな」
な、なるほど?
「つまり、『勇者』には二種類あって私は後者ということ……ですか?」
私の答えにアンドレアスさんが頷く。
「うぬ。故に『勇者』とは歴史の中において、割合多く出現しているのである。ただ……『ギフト』持ちは中々現れず、大変希少であるな」
「そ、そうなんですか……?」
あれ? じゃあなんで……。
「じゃあなんで、私が『ギフト』持ちだってわかったんですか?」
私の更なる言葉に、みんなが沈黙する。えっ、なに? 怖いんですけど……?
しばらくして、リュドヴィックさんが口を開いた。
「『ギフト』持ちかどうかの判別は、神官になる者にしか伝授されなくてな? オレも詳細まではわからないが……少なくとも普通の状態ではない……のだろう」
だろうって……そんな曖昧な……。
「とにかく、そういう訳であるからして……。話を戻してよいな?」
アンドレアスさんにそう言われ、私はただ頷くしかなかった。
正直、そんな曖昧な存在である自分――私はなんなのだろうか?
そんな疑問にぶつかるのだった。