「とにかく、イグナート殿の身体については以上である」
うーん……『勇者』の定義もだけど、オクト君が前に言ってたよね? 『勇者であるイグナートが現れてみんな不安だ』って。でも、『勇者』は割といた訳で……なんで私の時だけ……みんなそんな反応なんだろうか? 『ギフト』のせい?
そんな疑問をぶつけたかったけど……話は既に変わっていた。
「それで、アンドレアス殿は……予定通り我々と同行するでよろしいのですか?」
リュドヴィックさんがアンドレアスさんに訊く。
「うむ。むしろ、こうなったからこそ行かなねばらないと思っている。早急な解決こそが、安寧への道と……な?」
そこで言葉を切ると、アンドレアスさんは入って来た扉に向かって行く。
「では、我は支度をしてくるである。こんな状況なのでな……貸せる部屋がここしかないのであるが……」
そう言うアンドレアスさんに、リュドヴィックさんが首を横に振りながら答えた。
「いえいえ、休む部屋をお借り出来るだけで助かります」
「左様であるか。では、失礼するである」
こちらを一瞥して、アンドレアスさん達は部屋から出て行ってしまった。
残された私達の間に、微妙な空気が流れる。
「え、えーっと……」
それに耐えきれなくて、私は何か言おうとした時だった。
「イグナート、お前的にはさ……その……違和感とかねぇのかよ?」
オクト君が私に向かってそう声をかけて来た。
「えっ……。あー……特にないけど……?」
……だって今まで何も感じなかったからね……。
私が素直に答えると、みんなが黙ってしまう。
えぇ……なんか喋ってよ……?
困惑していると、リュドヴィックさんが咳払いをして話を変えた。
「イグナートの件については、今は置いておこう。それより、今日はもう休むぞ? 詳しい事は打ち合わせないとわからないが……おそらく明朝には出立だろうからな」
それだけ言うと、リュドヴィックさんは休む体勢に入ってしまった。
周りを見れば、ブリアック卿も、オクト君もだし……仕方なく、私も休む体勢になるしかなかった。
――でも、眠れそうにはとてもじゃないけれどなれなかった。だって、私は……つまり何者になったんだろうか?
そんな想いが、頭の中を支配していたからだ……。