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第63話 取り残された想いと

「とにかく、イグナート殿の身体については以上である」


 うーん……『勇者』の定義もだけど、オクト君が前に言ってたよね? 『勇者であるイグナートが現れてみんな不安だ』って。でも、『勇者』は割といた訳で……なんで私の時だけ……みんなそんな反応なんだろうか? 『ギフト』のせい?


 そんな疑問をぶつけたかったけど……話は既に変わっていた。


「それで、アンドレアス殿は……予定通り我々と同行するでよろしいのですか?」


 リュドヴィックさんがアンドレアスさんに訊く。


「うむ。むしろ、こうなったからこそ行かなねばらないと思っている。早急な解決こそが、安寧への道と……な?」


 そこで言葉を切ると、アンドレアスさんは入って来た扉に向かって行く。


「では、我は支度をしてくるである。こんな状況なのでな……貸せる部屋がここしかないのであるが……」


 そう言うアンドレアスさんに、リュドヴィックさんが首を横に振りながら答えた。


「いえいえ、休む部屋をお借り出来るだけで助かります」


「左様であるか。では、失礼するである」


 こちらを一瞥して、アンドレアスさん達は部屋から出て行ってしまった。

 残された私達の間に、微妙な空気が流れる。


「え、えーっと……」


 それに耐えきれなくて、私は何か言おうとした時だった。


「イグナート、お前的にはさ……その……違和感とかねぇのかよ?」


 オクト君が私に向かってそう声をかけて来た。


「えっ……。あー……特にないけど……?」


 ……だって今まで何も感じなかったからね……。

 私が素直に答えると、みんなが黙ってしまう。

 えぇ……なんか喋ってよ……?


 困惑していると、リュドヴィックさんが咳払いをして話を変えた。


「イグナートの件については、今は置いておこう。それより、今日はもう休むぞ? 詳しい事は打ち合わせないとわからないが……おそらく明朝には出立だろうからな」


 それだけ言うと、リュドヴィックさんは休む体勢に入ってしまった。

 周りを見れば、ブリアック卿も、オクト君もだし……仕方なく、私も休む体勢になるしかなかった。

 ――でも、眠れそうにはとてもじゃないけれどなれなかった。だって、私は……つまり何者になったんだろうか?

 そんな想いが、頭の中を支配していたからだ……。

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