しばらくして、リュドヴィックさんが私達の元へ戻ってきた。
「アンドレアス殿、お待たせ致しました。二人も待たせたな」
そう私達に声をかけると、チケットらしきものが手渡された。
「うむ、こちらこそ手続きを任せてしまってすまないのである」
「リュドヴィック卿、ありがとうございます!」
「ありがとうございます! ……あの、これでどうやって船に乗るんですか?」
アンドレアスさん、オクト君、私が順に反応する。私だけ最後質問でごめんなさい! だって『前世』じゃ船……それも運河を渡るほどのなんて乗ったことなかったし……。
リュドヴィックさんは慣れた感じで私に向き直り説明してくれた。
「これを受付で手渡して半分に切ってもらえば乗れる。出発はまだだが……乗り込んでおいた方がいいだろう」
リュドヴィックさんにアンドレアスさんが声をかける。
「そうであるな。船の構造を把握しておきたいであるしな?」
船の構造なんて知ってどうするんだろう? そう思っていると、オクト君が口を挟む。
「船の構造ってことは……それも敵襲に備えるためですか?」
アンドレアスさんとリュドヴィックさんを交互に見やると、二人は頷いた。
「あぁ、その通りだ。そういうわけだから、さっそく船に乗るとしよう」
リュドヴィックさんはオクト君にそう答えると、受付に向かって行く。私達も後を追った。
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「うわぁ……ひっろ……」
船の大きさに思わず圧倒されてしまう。かなり広い。
『前世』の私はこんな大きな船に乗ったことはなかったし、リュドヴィックさんに助けられた時も客船ではあったけど、小さかったし。
つまり、人生でおそらく経験したことがないくらい大きいのだ。
色は白くて、でも船体の真ん中に銀色のラインが入っていて、なんだっけ……船首だ! そこには、美しい女性の像があり、そして、煙突からは煙が出ていた。
「おぉ~! これがあの、ゼナイド号か~! 聖女の名前が付いているだけあって綺麗だな!」
オクト君が私の近くでそう言った。なるほど、ゼナイド号なのね……。そういえば像の女性どっかで見たなと思ったらゼナイド様か! 説明ありがとう!
「ん? どした?」
「あ、いや~大きいな~って思ってさ!」
私がそう答えるとオクト君がフッと笑った後、真剣な表情に変わる。
「なぁ……。何もなければいいな……」
その真剣さに、私も深く頷き返す。うん、何も起きてほしくない。出来れば……ヌンキにもね……。
そう思いながら、私達は列に並んで船に乗り込んだ。
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乗り込んですぐに、船員さんとリュドヴィックさん、アンドレアスさんがなにやら話し込みだしたので、私とオクト君は他のお客さんの邪魔にならない場所へ移動して待機する事にした。
しばらくして、二人が戻って来る。
「船内の地図と中を確認する許可を得た。ブリアック卿と合流次第、調べるぞ」
なるほど、そのために話してたのか。いや、それくらい察しろって話だよね……。うーん、どうしても鈍感になっちゃうな……。……平和な国に『前世の私』はいた。だからこその……現実逃避なのかもしれない。
そんなことを考えていると、ブリアック卿と合流できた。五人それぞれが船内の地図を持つ。
「この船は四層構造だ。上から順に、食堂とホール、一等客室、二等客室、最下層がボイラー室で、最下層は残念ながら立ち入り禁止だそうだ。よって、オレ達が視認できるのは二等客室までだな」
リュドヴィックさんの言葉に、ブリアック卿が反応する。
「了解。……全員で回るべきと判断するが?」
「ブリアック殿に賛成であるな。幾分目立つだろうが、仕方あるまい」
アンドレアスさんも賛同し、全員で船内を確認することにした。お客さんの視線を沢山浴びたけれど……仕方ないと割り切った。
――何事もない事を祈るばかりだ。