殺人者の部隊に入ってしまった――――
納得も、自覚も、覚悟も、何一つできていないまま、その事実だけが牙を立てて心に食らいついている。
ほんの二十四時間前、遺伝子検査のためにクラスメイトと共にここに来たのが、もう遠い昔のように思える。悪夢を見ているとしか思えない。そう思いたい。しかし、現実は初任務という体裁を取って圧し掛かってきている……
刑務官のような深緑色の制服と帽子。隣には灰色の部屋着も置いてある。――中にいるうちは囚人で、外に出る時は
眞咲は学生服のボタンを外していった。再びこれを着る機会は果たしてあるのだろうか。暗澹としながら着替えている途中、携帯が震えた。眞咲自身の携帯は昨日壊されてしまったため、
届いたのはその荊からのメッセージだった。
《着替え終わったら地下二階の技術開発部門へ行け。葉島《はしま》
―――― ◇ ――――
「眞咲……!」
一週間ぶり顔を見る父の姿は、もう何年も会っていなかったかのように思えた。
「……父さん」
眞咲は視界を滲ませた。今さらながら一般的な親子らしい関係を築いてこなかったことを後悔した。そうしていればもっと感情を露わにして、心の闇を吐き出すことができただろう。しかしそれでも家族の姿は、心に温かさをもたらした。
「すまん、眞咲……俺がずっと先延ばしにしてたせいだ……検査が終わったら言うつもりだったんだが、まさかその日に襲撃があるなんて……」
「父さんは、知ってたんだ……」
眞咲が力なく言うと、父は視線を下げて、
「……ああ、お前が一歳になった頃に……えっと、ここの検査で知らされたんだ……」
一歳になった頃といえば、ちょうど母が亡くなったのと同じ時期だ。
「母さんは……知ってたのかな……」
父は視線をさらに下げ、
「……いいや、母さんは何も知らなかった。何も知らずに死んだんだ」
やけにきっぱりと言った。
「それより、これを……」
と、父は片手に提げていた細長い物を両手に捧げ持った。眞咲は努めて見ないようにしていたのだが、やはりそれは……
「刀……?」
しかしそれは機械的な形状をしていた。全体の色は白。持ち手の部分は普通の刀と同じ柄巻だが、鞘は妙に太く、排熱孔のような穴が並んでいる。
「ああ、けどほら、見ろ……」
父は鯉口を切って半ば抜き、刀身を見せた。中身もやはり白く機械的で、刃の部分を両側から挟み込むように、ハーモニカのような小さな孔が並んでいる。父はその刀身を指でなぞりながら、
「刃は付いてない。これはその……衝撃を和らげる機構なんだ。よほど当たり所が悪くなければ、死にはしないだろう……」
父は早口で言い、元通り鞘に納めたそれを差し出した。
眞咲はためらいつつも鞘を掴んだ。何にせよ本物の日本刀を持たされるよりは何倍もマシだ。
「……父さん、僕が帰ったら……二人で話せるかな。これまでのこととか、これからのこととか……」
父は視線を彷徨わせた。
「ああ、そうだな……うん、そうした方がいいな……うん、そうしよう……」
眞咲は精神力を振り絞って弱々しい笑顔を作った。
「じゃあ父さん……行ってきます」
「ああ、行ってこい……!」
父は見たこともない晴れやかな顔で笑った。
まるで肩の荷を全て下ろしたかのように。