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第二十三話 部隊、合流

「ちくしょう……‼ 退くも進むも地獄かよ……‼」

〈刺殺〉は忌々しげに吐き捨てた。


〈刺殺〉、小峰こみね間宮まみや、そして間宮の部下達はオフィスの一室に閉じ込められ、傭兵達の猛射撃を受けていた。


 いくつものデスクを挟んだ部屋の反対側から間断なく攻撃を加えてくる敵部隊。間宮と部下達がデスクを盾にしつつ応射しているが、多勢に無勢である。


 小峰は相変わらず生きているのか死んでいるのか分からない顔でデスクの陰にうずくまっている。


 たった今、間宮の部下の〈銃殺ゲノム〉がまた一人頭を撃ち抜かれて死んだ。


「こりゃあ、いよいよ死の行進か……!」

〈刺殺〉は血や内臓のこびりついたナイフを見た。


 百年前のご先祖様が何人殺したか知らないが、自分は確実にそれ以上の数を殺している。ある日を境にお前は〈刺殺ゲノム〉だと言われて囚人のように扱われ、国のためにと殺しを強制されてその見返りは、嫌悪と蔑視とさらなる殺戮。


 ――頭のイカれた殺人嗜好者しこうしゃでもなければ、できることではない。


「殺す……! 奴らを殺す‼ 俺が殺す‼」


〈刺殺〉は気合と共に、デスクの陰から身を乗り出した。


 だがその瞬間、敵兵の立っている床が、光を放った。


「――⁉」


 その場の誰もが驚愕し、動きを止めた。その一瞬の間に紫の光が一閃、二閃、三閃四閃。


 光が通る度に血煙を上げる傭兵達。ついに床がガラガラと崩れ、死体もろとも階下に引きずり込まれるように消えていった。


 静寂は唐突に訪れ、小さな瓦礫が階下に落ちる音だけがことさら響く。


〈刺殺〉は思わず間宮と顔を見合わせた。


 すると、床の大穴から突然ロープのようなものが飛び出し、先端が天井の照明器具に絡みついた。そして自動でギリギリと収縮し、階下にいた二人の人間を引っ張り上げる。


 眞咲まさきは右手で絞殺ウィップの持ち手を掴み、左手で蔡羅さいらを抱きかかえるようにして昇ってきた。そして二人で勢いをつけて前方へ跳び、三階の床に着地する。


「ふう、便利ですねこれ」

 と言って眞咲は蔡羅にウィップを返した。


「ふふん……でしょ」

 蔡羅はとろんとした目をしている。


「〈斬殺〉! てめー……!」


〈刺殺〉、間宮と部下達、そして小峰が駆け寄る。


〈刺殺〉は怒り顔で眞咲を数秒見つめた後、

「おせーんだよ! 一番の修羅場だって時に!」


「すみません……何しろ葉桜なので」


 眞咲が言うと、〈刺殺〉は「ああ?」と怒り顔で首をひねった。


 そこへ間宮が、

「何にせよ、助かった……。課長、聞いての通りです。こちらは、二名が殉職……」


 全員のイヤホンにいばらの返信が入る。

『……分かった。敵の状況だが、先ほど情報処理隊から報告が入った。最上階に多数の熱源を探知。そこから複数が分離し、各所に移動しつつある。どうやら守りを固めているようだ。推定四十名。全員武装していると見ていい』


「アーヴィング・バラシュとクララ・プロシュタヌもその中に?」


 間宮が問うと、『可能性はある』という荊の答えが返ってきた。


「了解。よしみんな! 気合いを入れ直せ! 片を付けるぞ!」


 間宮は号令を出し、隊員達にそれぞれ配置の指示を出した。そして最後に眞咲に向かって、

「葉島、斬り込みを頼めるか」


 眞咲は沁みとおるような微笑で答える。


「ご命令して頂くだけで大丈夫ですよ。間宮さん」


 そして眞咲は部隊の先頭に立ち、『葉桜』の鯉口を切った。


 さあ働いてもらうぞ人斬り兵庫。銃で武装した四十人。斬れるものなら斬ってみろ。


(斬るのはあんたですよ。私はあんたの刀です)


 身体の中から声が聞こえた気がした。


「――行きましょう、皆さん」


 紫焔の刃を先頭に、等活部隊は前進した。


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