デパート横の家電量販店の階段を登っていた
「あれ……! おじいちゃんが……⁉」
「じーさん、〈爆殺ゲノム〉だったのか……⁉」
〈刺殺〉が言った。
間宮はその後ろで、
「いや……違う。あれは……」
と、それ以上は言わなかった。しかしその様子から、他の隊員は事態を察して息をのんだ。
「てめー知ってたんなら……‼」
〈刺殺〉が間宮に詰め寄った。
が、間宮はそれ以上に詰め寄って言葉を振り絞った。
「彼の意志を汲むんだ……‼」
口をつぐむ〈刺殺〉。
間宮は岩のように表情を硬くして指示を出す。
「行くぞ! 俺達の仕事を果たすんだ! ……
「……うん」
蔡羅は窓から離れた。泣き腫らしたようなアイメイクから、涙が点々と落ちた。
―――― ◇ ――――
「……そう……ですか」
暗い倉庫の中、
イヤホンから
『
「……はい!」
眞咲は目の前の壁に向けて、居合の姿勢を取った。
直接言葉を交わしたのは一度きりだった。しかし彼が示した行動は、どんな言葉よりも眞咲を感奮させる力があった。
その無言の勇姿を無駄にはしない。騎士との戦いは始まったばかりだ。
―――― ◇ ――――
「神経ガス……⁉ どういうこと⁉ 誰か答えて!」
クララは先ほどの振動と衝撃音の正体を無線で繰り返し問い質した。しかし通信は
化学兵器を使うなんて、教授からは聞いてない。これは邪な者を正しく殺す戦いじゃないの? 神経ガスで不特定多数の命を奪おうとするなんて、そんなの……
瞬間、並々ならぬエネルギーの急接近を感じ、クララはとっさに後ろへ跳んだ。背後の商品棚ごと盛大に倒れる。
直後、それは来た。巨大な紫の刃が目の前の壁と商品棚を斜めに斬り裂きながら、クララの上半身を舐めるようになぞる――
「ぐっ……!」
天井までが斬り裂かれ、照明が落ちる。紫の刃は消え、敵の姿も見えない。クララは息を潜め、怪我を確認する。右上腕を縦に裂かれたらしい。急いでここを離れなければ、また次の攻撃が来る――
立ち上がろうとした時に床に散らばった商品に触れてしまい、ほんの微かな音が鳴る。
斬撃――商品棚の向こうから。直後、さらに別の方向から。同じ室内にいるのは確かだが、攻撃後に納刀しているらしく、武器が放つ光で位置を特定することができない。
化け物め――! クララは意を決して走った。さっきの二撃はいずれも身体に傷を与えていた。腕、背中、額から血を流しつつ、店の奥へ走る。柱を回り込み、その向こうの階段へ――
いた。当然の帰結であるかのように、奴がそこにいた。階段の前に陣取り、獣のように低い姿勢で奇妙な構えを取っていた。
「――っ!」
やけくそ気味に滑り込んだのと奴の手元が光を放ったのが同時。恐るべき速度で鞘から抜き放たれた斬撃は地面を斬り裂きながらクララに襲い掛かり、右脇腹に赤い線を描く。
クララはすぐさま立ち上がって階段を飛ぶように登った。置き去りにしていた激痛が後から追いつき、顔を歪ませる。左に滑り込むのが一瞬でも遅ければ、身体は斜めに両断されていただろう。何て恐ろしい業なの。こんな戦い、初めて……
身体の痛みと敵への恐怖に、クララは思わず口から息を漏らした。
「……あはっ」
――え? いま、私……
口から洩れた感情の正体を探っている暇はなかった。世にも恐ろしい気配が背後から迫っている。クララは限界まで身体を捻って振り向きざまにサーベルを薙ぐ。自分でも驚くほどの速さで剣が伸び、敵のこめかみを見事斬り裂いた。
怪物の血が、クララの顔面に飛び散る。
「あっは‼」
その時クララははっきりと感じてしまった。痛みも恐怖も超えた先にある甘美。命のやり取り、血と血の交換。そんな極限状態でのみ到達できる忘我の境地。
――強い、エクスタシーを。