第12話☆ぼくの夜明け
明日が来るのが無性に怖かった。
何気ない毎日を繰り返して生きてゆくのに、突然その感情は降ってわいたように現れて、ぼくをさいなむ。
いやだ、いやだ、いやだ!
同じことの繰り返し。そんなのいやだ。
布団にくるまって、わんわん泣きじゃくる。
現実に立ち向かうには、今のぼくでは力が足りない。
昨日と同じ今日、今日と同じ明日?
そのまま時がうつろい、年を取り、やがて死を迎えるのか?
ぼくは記憶をなぞる。朝起きて昼間仕事をして、夕方今日も一日が過ぎる、そんな逢う魔ヶ時にさしかかると現れる虚しさと孤独感。
この繰り返し?
うわあああああ。
そんな声が口元から漏れ出す。
ひとしきり泣いて、涙も枯れ果て、いつのまにか暗闇の中でぼんやりと思う。
昨日と同じ今日、今日と同じ明日?
いや、ちがうよ。
昨日と違う今日、今日と違う明日。
それこそが真実。ぼくが、ぼくであるために毎日を精一杯生きているのに毎日が同じなわけ、ないじゃないか。
どうして忘れてしまうんだろう?
前にもこんなことがあった。
無性に虚無感を感じて、泣きわめき、そして、うそのようにそれが消え去り、新しい希望が構築されてゆく。
ぼくは燃え上がる炎のような希望に蹴飛ばされて、立ち上がる。
明日。
明日が来る。
新しい今日がやってくる。
新しい今日こそは生きている証を探しに行って、実感するんだ!
恒星の周りを惑星が回り、惑星が自転している限り、新しい朝はやってくる。
ぼくはほこりをかぶったカンテラの手入れを始めた。
朝を迎えに行こう。
少し肌寒いので、上着を羽織る。
どこかで誰かがぼくのことを見ている。そんな気がしていたのが確信に変わる。
見守ってくれているその誰かは、いつも、ぼくが忘れそうになると、こんな風に活を入れてくる。
それを神様だと言う人もいるけれど、ぼくはあいにく無神論者だから、それは一次元上の超存在だとか、考えてしまう。
ぼくのいるのは二次元で、それを見守っていて操作している三次元の存在がいて、その三次元の存在も四次元の存在に左右されて……。きりがない。かくいうぼくも、一次元の世界を自由に設定して動かしている。
ぼくはぼくの中に宇宙を持っている。レインボーカラーの宇宙さ。
時計の針は真夜中を指している。
今からこの街の果てまで出かけたら、ちょうど国境あたりで日の出を見ることができるだろう。
階段は果てしなく続くようで、その実、この国の国境までしか伸びていない。でもぼくはその先まで行こうとは思わない。
ぼくは、ぼくのいるこの世界が大好きなんだ。
二本の足でしっかりと踏みしめる。ここがぼくの世界。
「さあ、いくか」
カンテラに灯りをともして天窓をそっと開けた。