第18話☆オートモティブ
プップー!
歩いていたら、背後で音がした。
ぼくは振り返って、急いでやってくるオートモティブに道を譲った。
いつも見かけるものよりも大型のオートモティブだった。
階段の段差を拾いながら進む乗り物で、足の悪い人や急いでいる人が利用するものだ。たまには引っ越し用とか、団体旅行用とか、荷物の運搬用とかみかけるけれど、でくわすのはほんとにごくまれで、それはぼくがなるべく細い階段とかを選り好んでばかりいるからかもしれない。
この国ができた当初に、発明家が階段の国の独自の移動手段として開発した。
「必要は発明の母」ともいうし、すごいことだと思うよ。
でも、ぼくは、じぶんの足が元気でどこまでも続く階段をゆくのが苦ではなかったから、オートモティブに乗ることはまれだった。
海外に行く手段として飛行する乗り物もあるにはあるけれど、階段だらけのこの国のはるか北方に小さな空港があるだけで、一度見に行ったけど、さびれた様子だった。
空に三つあるうちの二つの月がかかっていた。引力の影響で、ちょっとだけ体が重い。月が三つとも出ているときは最悪で寝込んでしまうほどだった。ホロスコープで占っても、なかなか運勢は予言できない。複雑怪奇な道程だ。
そういう不調なときは、自分の部屋にひたすらこもってやり過ごすのが常だった。
「そうだな、どうしてもどこかへ行かなくちゃならない事態になったら、オートモティブに乗ることになるんだろうなぁ」
ぼくがぶつぶつ言っていると、どこか遠くの方で、プップー!という音が聞こえた。