第19話☆チェリーピンク
お隣さんと一緒に街の水族館へ行った。
「海ってすごいね。こんな生き物たちがいるんだ」
お隣さんがはしゃいで言った。
ぼくもうわあ、って感嘆の声をあげながら展示された海の生き物の水槽を見て回った。
「ねえねえ、この子かわいいよ」
「これ?」
ぼくが水槽に人差し指を向けると、水中のちっちゃな黄色いかたまりがちゅっ、と、ちょうどぼくの指が当たってる辺りのガラスにキスをした。
「かっ、かわいい!」
ぼくらのハートはわしづかみにされた。
「いいないいな。この子欲しいな」
「無理言っちゃだめだよ」
「無理じゃないかもよ。この前あなたが表彰されたときになにか一つだけお願いを聞いてくれるっていってたじゃない。まだあれが有効なら、おうちにこの子迎えられるかもしれないよ」
「うーん」
ぼくは役所に電話して、お願いしてみた。
「いいって」
「やったー」
「お迎えするために、道具一式そろえなくちゃならないから数日かかるけど」
「うん。いいんじゃない?」
お隣さんは、
「この子の名前つけてもいい?」と上目づかいで聞いた。
「いいよ」
「チェリーピンクちゃん」
「ちぇりーぴんくぅ?黄色いのに?なぜピンク?」
「かわいいからいいでしょ!」
「うーん」
水族館に来ている人たちがぼくらをじろじろ見ていた。
「いいなー、あの人、あの黄色い魚飼えるんだって」
「あれ、フグでしょ?」
親子連れの話が聞こえて、ぼくはやっと何の魚か知った。
「発電機を設置して、ヒーターと水の循環装置を動かします」
えらいおおごとだ。ぼくはあわあわいいながら、もう後戻りできないし、受け入れるしかなかった。
「サンゴの化石砂、ライブロック、海水の素、塩の濃度計、水温計……」
業者がぼくの部屋に運び入れる品々。
なんかすごい。
ひとしきり世話の仕方を習って、準備万端で迎えたチェリーピンクちゃん……、とハゼとシマキンチャクフグ。
「?あのこれ、なんで一緒に」
「オプションです」
「えー!」
まいったなあ。一匹だけでも世話できる自信ないぞ。
「アオイちゃんとシマちゃん」
お隣さんがさっそく来て名付けた。
「かわいー。時々海水濃度の水追加するだけでいいんでしょ?」
「餌はライブロックにちっちゃいのがいっぱい着いてるんだって」
数日後。ライブロックから細かいクラゲの赤ちゃんが発生した。
「なんじゃこりゃ」
ぼくはびっくりしてそれを見た。
ほっといたらクラゲはいなくなった。
「コンゴウフグ、かあ」
借りてきた図鑑で調べたら、チェリーピンクちゃんはコンゴウフグだと判った。ツノがある。目が緑にきらめく。口がとんがっている。四角い。黄色い。
「これからよろしくな」
ちょん、と水槽をつついたら、チェリーピンクもちゅっとキスで返した。