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第22話☆封じられた階段

第22話☆封じられた階段



星降り祭の翌朝、空には三日月が三つ重なり、夜の名残りを輪郭として残していた。

リクはサラと並んで市場通りを抜け、街外れの「忘れられた踊り場」へ向かった。

そこには途切れた階段が朽ちた門で塞がれており、長い間、誰ひとり足を踏み入れていないという。

星のかけらの熱は冷めず、リクのポケットで小さく脈を打つ。



門の前に立つと、錆びた歯車がはめ込まれた鍵穴があった。

サラが囁く。

「星のかけらを――」。

リクは結晶の破片をそっと差し込む。

瞬間、鍵穴が淡く桃色に光り、重たい鎖がほどける音を響かせた。

門がわずかに開きかけたそのとき、背後から低い咳払いが届く。



「勝手に扉を開けるのは感心しないね」



灰色の外套をまとい、懐中時計をいくつも吊るした老人が立っていた。

名を《時計職人》というらしい。

彼は門番の役目を代々受け継ぎ、流れ落ちる星々の時間を測ることで階段の均衡を保っているのだという。



「ここから先は“時間が逆巻く階段”。

書き手であっても心が揺れれば道に迷う。

試練を受ける覚悟はあるか?」



リクはサラと視線を交わし、静かに頷く。

時計職人は錆びた懐中時計をひとつ差し出した。

針は止まり、文字盤は透きとおる水晶。



「この時計は君自身の物語の軌跡を刻む。

動き出したとき、君は戻れない」



リクが受け取ると、瞬間、針が小さく振動し、星のかけらと共鳴するかのように淡い光を宿した。

門が風に押されるように開き、奥からひやりとした空気が流れ出す。

階段は下へも上へも延び、その先は霞に包まれている。



サラがリクの手を強く握った。

「二歩目ね。

一緒に歩こう」



リクは深呼吸し、最初の段を踏みしめる。

足裏を通して流れてくる微細な震えは、過去と未来が交錯する拍動のようだった。

時計職人の声が背後で揺れる。



「君の文字は時間を編む糸。

逸れれば簡単に切れる。

だが恐れるな。

言葉は刃にも盾にもなる」



振り返ると、老人は穏やかに微笑み、門を閉じ始めていた。

鎖が再び絡まり、世界が小さく軋む。

リクは顔を上げ、霧の向こうへ視線を送る。

どこかで鈴の音、いや時計の秒針の音に似た響きがこだまし、階段の闇を震わせていた。



ポケットの星のかけらが、再び熱を帯びる。

リクは時計を胸の前で握り、次の物語の輪郭を胸に描く。

――あと五歩。

だがその五歩は、かつて歩いたどの階段よりも長いかもしれない。



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