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第2話 悪役令嬢

 早く帰ってヒーローとヒロインに癒されたい。

それだけを心の支えに、私が横断歩道に差し掛かると、あと少しで信号が赤に変わりそうになっていた。


「待って! まだ変わらないで!!!」


 そうつぶやきながら、私が横断歩道に入ったその時。

眩しいライトの光が突然目の前で私の顔を照らし、それがバイクだと気づいた瞬間に私の意識はそこで途絶えた。


***


 なぜだろう。頭が割れるように痛む。

今日は、が豪邸の庭に咲き誇った薔薇を皆で鑑賞する会を開いている。

数々の素晴らしい出来栄えの薔薇を披露する大事な会であり、婚約者である王太子殿下との仲を皆に見せつける良い機会なのに……。


「うっ……」


 キーンという頭の鈍い痛みに思わず声を漏らすと、私はそのままその場に倒れた。



 どれほど時間が経ったのだろう。

私は、自室のベッドの上でゆっくりと目を覚ました。


いつもの見慣れた天井、家具、そして窓から見える庭の薔薇の花々。

しかし、ただ一ついつもと違っていることがあった。気づいてしまったのだ。


「こんなことがあるなんて……」


 私は、自分が今置かれている状況が信じられなかった。いや、信じたくない。

そうだ、これはきっと悪い夢に違いない。

リアルすぎるよ、この夢!

私は、思いっきり自分の頬っぺたをつねってみる。


「痛っ!!!」


 無情にも、頬っぺたにとてつもない痛みが走り、私は悪夢のような現実と向き合う羽目になってしまった。


 あの日、会社帰りに私はバイクにかれたのだろう。そして転生をした。それも乙女ゲームの世界にだ。

普通なら大好きな乙女ゲームの世界に転生出来たなんて嬉しすぎることなのだが、私は今の自分の状況を全く喜べないでいた。

私が転生した乙女ゲームの登場人物。

それは、私が苦手としているキャラだった。


 クリスティーナ・アンリ 二十二歳。

アンリ公爵家の公爵令嬢であり、この国の王太子である第一王子の婚約者である。

悪役令嬢らしいプライドの高さと冷酷な性格。

見た目の美しさに反した腹黒さ。

どんな手を使ってでもヒロインをおとしめようとする性根の悪さ。

ゲームの途中、何度私の心が怒りに震えたか。

それなのに今のこの状況をどうしたらいいのだろうか。


「何でよりによってこの人に転生したのよ!」


 掛けられている高級な布団を頭からすっぽり被ると、私は誰にも聞かれないようにうなった。

しかし、こうなってしまった以上何とかするしかない。

さて、どうするか……。

少し冷静になって考えてみる。

確か私が頭の痛みで倒れる前、屋敷の庭で薔薇の鑑賞会をしていた。

この場面を過去にプレイしたことは鮮明に覚えている。

なぜなら、この場面は初めてヒロインとヒーローが出会う重要なシーンだからだ。

私は、それを思い出すと慌ててベッドから起き上がり、窓から薔薇園を覗き込んだ。

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