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第3話 ヒーロー・ヒロイン登場

「もうヒロインはヒーローと出会ったのかな? うーん。よく見えない。すごくいいシーンなのにぃ」


 私は、目を凝らして庭の隅から隅までを見渡したが、ヒロインがヒーローと出会っている様子はない。

もしかしたらもう既に二人は出会い、意気投合してどこかに出掛けたのかもしれない。

それはそれで、私的にはオッケーな展開だ。

そんな幸せな妄想に頬を緩めていると、部屋のドアをノックする音とメイドの声が聞こえた。


「クリスティーナ様? 起きていらっしゃいますか? アルベール様がお見えになっております」


 (えっ! アルベール様?)


 アルベールという名前を聞き、私は慌ててベッドに横たわった。

そして、いかにも今まで寝ていたかのような気だるい声を出した。


「起きているわ……どうぞお入りになって」


 悪役令嬢らしくクールに決めていても、内心は心臓が破裂しそうなほどドキドキしている。

あのアルベールが私の目の前に現れるなんて。


 アルベール・デュラン 二十四歳。

ここラブリエ王国の王太子である第一王子であり、クリスティーナの婚約者だ。

クリスティーナとの間に愛はなく、お互いに政略結婚の相手としか見ていない。

正真正銘、この乙女ゲームのメインヒーローである。


「気分はどうだ、クリスティーナ」


 いつものように優雅な姿で颯爽と私の部屋に入ってきたアルベールは、ベッドに寝ている私を見下ろした。

私が緊張しながらアルベールに返事をしようとした時、ふとアルベールの後ろを見ると、そこには一人の女性が立っていた。


「ご心配をお掛けいたしました殿下。もう大丈夫ですわ」


 アルベールの美しく整った顔立ちを直視出来ないことと、アルベールの後ろに立っている女性が気になって、私は少し棘のある言い方をして顔を背けた。

アルベールが私(クリスティーナ)に愛情がないのは理解しているし、このお見舞いも婚約者としての社交辞令のようなものだろう。

悪役令嬢をちゃんと演じないと……。


「そうか……」


 アルベールは、私の態度に動じることもなく小さくつぶやくと、後ろに立っていた女性をエスコートするように自分の前に立たせた。


「クリスティーナ。こちらはムニエ伯爵家のリゼット嬢だ。屋敷の庭で迷っていたので声をかけたのだが、彼女も君に会いたいと言うので一緒に連れてきたんだ」


「リゼットと申します。クリスティーナ様の体調が回復されて良かったです。憧れのクリスティーナ様にお会いすることが出来てとても嬉しい。アルベール殿下に感謝いたします」


 リゼットは、恥ずかしそうに頬を赤く染めるとアルベールのほうを見て微笑んだ。


 (リ、リゼット? えっ、どうしてここに? こんな演出なかったはずなのに。それに、憧れって、クリスティーナに? 訳がわからないよ)


 今、私の前に立って頬を赤く染めながらアルベールと歓談を始めたリゼットという女性。

彼女こそがこの乙女ゲームのヒロインなのだ。

推しのヒーローとヒロインが目の前に!

緊張と嬉しさで身体がガタガタと震える。

そんな姿を二人に見られたくない。

私は、再び布団に潜り込んだ。

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