リゼット・ムニエ 二十一歳。
ムニエ伯爵家の令嬢であり、この乙女ゲームのヒロインだ。
「あら? クリスティーナ様、いかがなされました?」
布団に潜り込んだ私を見て、リゼットはすごく心配そうに尋ねた。
なんて優しい子なんだろう、リゼット。
こんなにいい子をクリスティーナがいじめていたことに怒りを覚える。
私は絶対にリゼットとアルベールの味方だと心に誓い、渋々、悪役令嬢としての振る舞いを続けた。
「また少し気分が悪くなってしまいました。申し訳ありませんが休ませていただきますわ」
いつものわがままな態度に呆れたのだろう。
アルベールが軽く息を吐く音が聞こえた。
「わかった。我々はこれで失礼する。何かあれば城の者に伝えてくれ」
「わかりました……」
私とアルベールの冷めた会話から何かを感じたのか、リゼットは帰り際に布団に潜っている私に向かって明るい声を出した。
「クリスティーナ様、お大事になさってください。またお見舞いに参ります」
(か、可愛い……)
推しからの
私が感動で泣きそうになって何も言えなくなっていると、アルベールとリゼットは静かに部屋を出て行った。
「あー、心臓に悪いよ。推しがいっぺんに二人も現れるなんて」
二人が帰った後、私はベッドから降りて近くにあった椅子に座りながら心臓に手を当てた。
まだ胸がドキドキしている。
それにしても、私が倒れたせいで少し遠回りをしたけど、これからアルベールとリゼットは恋に落ちるんだよね?
私は、乙女ゲームの内容を細かく思い出してみることにした。
何度もプレイしているし、会社に入ってからはさらにゲームについて詳しく調べたのだ。
「うーん。やっぱりネックはクリスティーナだよね。親密になっていくアルベールとリゼットを見て、嫉妬心からリゼットに対していろいろな嫌がらせをするんだもん」
しかし、今のクリスティーナは私だ。
絶対にリゼットをいじめることは無いし、遠くからアルベールとの恋を見守りたい。
二人が幸せになるのなら、私は国外追放になっても構わない。
そのためにも、これから何もトラブルが起こらないようにしないと。
トラブル。
思い起こせば、私は会社でさまざまなトラブルに対応してきた。そのスキルを今、
「よし! トラブルを先回りして回避していこう。最高のハッピーエンドを見るために! そのためには、アルベールとリゼット以外のキャラのことも詳しく把握しておかないとね」
私は、推しの二人のためにそう誓うと、乙女ゲームの世界を自分の目で確認するために屋敷の外に出てみることにした。