ノエルが開けてくれたカフェのドアからは、スイーツの甘くて心地よい香りが漂ってくる。
(は〜。いい匂い!)
どんなスイーツが味わえるんだろうと期待に胸を膨らませながら、私は店内にそっと足を踏み入れた。
店内に入ると、やはり人気店ということもあり、座るところもないくらいに大勢の客がこのカフェを楽しんでいる。どこかに空いている席はないだろうか。不安が私を襲う。
やっと念願のカフェにたどり着いたのに、このまま諦めて帰るなんて嫌だ。
そんな負の念が私の頭の中でぐるぐると渦巻いている中、ノエルのほっとしたような声が聞こえた。
「クリスティーナ様。空いている席がございました。あちらに参りましょう」
「空いていたのね。良かったわ」
ノエルが見つけた席は、ちょうどスイーツの入ったショーケースがよく見える席だった。
私は、ほっと息をついて案内された席に向かった。
席につき、カフェの店員がメニューを聞きに来るのを待つ間も、何人もの客が入れ替わり立ち替わりしている。
そんな店内が混雑している中、ある一人の男性がショーケースの前で何やら困っているような素振りをしていた。
(ん? あの人、どこかで見たことがあるような……)
私は、被っているキャペリンハットで自分の顔を隠すようにしてその男性の顔をじっと盗み見ると、そこにいたのはアルベールの専属騎士であるアドルフだった。
(えっ、アドルフ? ってことはまさか、あの場面が始まってるってこと? じゃあ今ここにリゼットも来ているのかしら)
私は、今度はガバッと顔を上げてリゼットがいないかどうか辺りを見回した。そんな私の落ち着かない行動に、ノエルは苦笑いをしている。私の様子が、はしゃいでいる子供のように見えているのだろう。
しかし、今はそれどころではない。リゼットがアドルフに声を掛ける瞬間を見逃さないようにしないと。
ドキドキしながら二人が出会う瞬間をじっと待つこと数分。私のテーブルにはすでにノエルが店員に注文してくれたスイーツと紅茶が並んでいた。
「どうでしょうか。クリスティーナ様のお口に合いますでしょうか?」
「え、ええ。とっても美味よ」
ノエルが頼んでくれたスイーツは若い女の子たちに人気のスイーツ三種類。
一つ目はミルフィーユ。何層にも重ねられたサクサクのパイ生地と、濃厚な生クリーム、そして新鮮なフルーツのアンサンブル!
二つ目はモンブラン。栗を渋皮ごと使った甘さ控えめなクリーム。てっぺんに飾られた栗がまるで王冠のように気品に溢れるブリッランテ!
三つ目はクレームブリュレ。こんがりとキャラメリゼされた表面をスプーンで割るとそこには甘〜いカスタードクリーム。まさにアマービレ!
生前、仕事疲れの身体を引きずるようにして立ち寄ったコンビニのコンビニスイーツも美味しかったけど、まさか死んでから本場のスイーツが食べられるなんて。早くこれらの味を満喫したい。
それなのに……。
私のすぐ目の前でいつまで悩んでいるつもりなのよ、アドルフ!それにどこにいるの、リゼット!
視界に入ってくるアドルフの背中が気になって、せっかくの素敵なスイーツたちを味わって食べることが出来ない。
「もう我慢できない」
「えっ、いかがなされました? クリスティーナ様?」
突然、持っていたフォークをケーキ皿に戻した私にノエルは何事かと少し青ざめていたが、私はそれを横目に立ち上がりアドルフに声を掛けた。