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第11話 引っかかり

『カフェ パティスリー』の一件から数日が経ち、私の屋敷では使用人たちの間でカフェのスイーツがブームになっていた。ノエルが私のために頻繁にスイーツを買いに行ってくれるため、使用人たちの分も用意するようにしたのだ。

初めは疑いの目を私に向けていた者たちも、スイーツを口にした途端みるみる笑顔になり、今では、皆んな私の顔を見ると気さくに挨拶をしてくれるまでになった。


 あの紅茶ポット事件の後、ノエルとアドルフのおかげで何とか屋敷に戻ることが出来た。

紅茶のポットを倒してしまったリゼットは、私の服が水浸しになっているのを見てひたすら頭を下げていたが、私はリゼットにちゃんと声を掛けられないままその場を離れてしまった。


「あーあ。リゼットと話せないままだったなー。もしかしたら嫌われたかもしれない。どうしよう……」


 推しに嫌われるだなんて、絶対にあってはいけないことなのに!


「はぁ……」


 もう何度目かわからない溜息をついて机に突っ伏す。そんな私の姿を見るに見かねたのか、食後の紅茶を運んできたノエルが私に声を掛けた。


「クリスティーナ様。もう何日も考え込んでいますが、いかがなされましたか?」


「実はね、この間の『カフェ パティスリー』でのことをずっと考えてたの。あんなことがあって、リゼット様とあまりお話も出来ないまま別れてしまったでしょう? それがずっと気がかりなの」


 私は、ノエルが入れてくれた紅茶を飲みながらまた溜息をついた。


「そうだったのですね。それでしたら、今度お屋敷で開かれるお茶会にリゼット様もご招待するのはいかがでしょう?」


「あっ、アルベール殿下も来るし、いいわねそれ!」


「え? それはどういう意味でしょうか?」


 アルベールとリゼットの恋を応援したいという私の思いを全く知らないノエルは、意味がわからないという顔をして私を見た。


「ううん。なんでもないわ。気にしないで。じゃあ、リゼット様に招待状を出しておいてね」


「かしこまりました」


 これでまた推し二人が顔を合わせられる!さっきまでの鬱々とした気分はどこへやら。私は、うきうきしながらもう一度紅茶を口に運んだ。


***


 心地よい風が吹くよく晴れた日。

わが公爵家の中庭では、招待された多くの客たちが上機嫌でお茶会を楽しんでいる。

生演奏のオーケストラと、王家御用達の陶磁器で嗜む高級な茶葉を使用した紅茶。そしてメインとして、シェフがカフェのスイーツを参考にして使った豪華なスイーツたち。

財力だけはあるから、上質な物を惜しみなく提供するところは毎回感心させられていた。


 そんな賑わいの中、中庭の入り口付近に人が多く集まり始め、周りの客たちに緊張が走った。アルベールの登場である。


 (来た!)


 アルベールは、従者や騎士を連れてゆっくり中庭に入ってきた。当然アドルフもその中にいる。

先導している我が家の執事がアルベールを上座に案内し、そっと椅子を引いた。

私は、アルベールが席についたことを確認すると、挨拶をするためにアルベールのテーブルに向かった。

テーブルに近づくと、アルベールの後ろのほうに控えているアドルフと目が合った。


 (この前はありがとう〜♪)


 本当はちゃんとアドルフにこの間のお礼を言いたい。しかし、アルベールに挨拶をする前にアルベール付きの騎士に話しかけることなど、絶対に出来ない。

私は、心の中で感謝の気持ちを言いながらアドルフに少し笑いかけると、アドルフもそれに応えるように穏やかな顔で頭を下げた。それを見届けた私は、すぐにアルベールに目線を合わせ、今日のために新調したドレスの裾を掴んで優雅にお辞儀をした。


「よくおいでくださいました、殿下」


「……」


「殿下? いかがなされましたか?」


「! あ、ああ。招待感謝する……」


 (どうしたんだろう? 何か考え込んでたみたいだけど)


 まだ少し硬い表情のアルベールを横目で見ながら、私はアルベールの隣の席に静かに座った。

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