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第13話 お茶の濁し方

「クリスティーナ様。リゼット様がお越しになりました」


 ノエルが私に耳打ちをする。私は、アルベールから目線を逸らしてうなづいた。リゼットが来たら、このテーブルに案内して欲しいとお願いしておいたのだ。

程なくして、執事に案内されたリゼットが嬉しそうな笑みを浮かべながらやって来た。


「お招きありがとうございます、クリスティーナ様。そして、殿下におかれましてはご機嫌麗しく存じます」


 リゼットがうやうやしくドレスの裾をつまんでお辞儀をすると、アルベールは一瞬戸惑ったように私を見た。


「クリスティーナ。こちらの令嬢は?」


「えっ?」


 どういうこと? 忘れちゃったの? リゼットのこと。

アルベールの言葉に、リゼットも焦ったような素振りをしている。


「リゼット様です。この間の薔薇の鑑賞会の時に、具合が悪くなったわたくしのお見舞いに殿下と一緒に来ていただいたではありませんか」


「ふむ。そうか、あの時の」


 アルベールは、その時のことを思い出したのか納得してうなづいた。

リゼットは、アルベールに覚えてもらえていなかったことにショックを受けたのか顔色が少し悪い。

やっぱり私がクリスティーナに転生なんてするから、シナリオが大分変わっちゃったのかもしれない。

でも、逆に考えたらどう?

こんな二人のやりとりを見るのは辛いけど、乙女ゲームにはこういう悪い印象から始まる恋もある。

きっとそうだ。二人はここから恋に向かうんだ!

私は、自分にそう言い聞かせるとリゼットに席につくよう促した。


「リゼット様。先日のお見舞い、本当にありがとうございました。今日はその感謝の気持ちですわ。美味しいスイーツがありますから、遠慮なさらずたくさん食べてくださいね」


「いえ、そんな……。わたくし、カフェでクリスティーナ様にあんなことをしてしまったのに。感謝するのはこちらのほうです。殿下にもまたこうして直接お会い出来ましたし……」


 殿下にも……からがまた小声でよく聞き取れなかったけど。私、リゼットに嫌われてないみたいで良かった〜!

ずっとそのことを考えていて、眠れない夜もあったのだ。


「ほう。クリスティーナとリゼット嬢は一緒にカフェに行くほど仲良くなったのだな」


 リゼットに嫌われていなかったことにほっとしている私に、アルベールが興味深そうな視線を向けた。


 ドキッ!! な、なんでそんな顔で私を見るの? なんか優しくない!?

いつものアルベールではない気がして、私の心臓がドキドキと音を立てた。

推しの破壊力半端ない……。


「そうなんです。わたくしとクリスティーナ様はカフェで一緒にお茶を飲みました」


 初めて見たアルベールの優しい態度にときめいてしまった私の代わりに、リゼットが嬉々とした顔で答える。


「あの時はカフェの中にいるクリスティーナ様とアドルフ様を外からお見かけしたんです。すごく親しそうにお二人がお話ししているので、わたくしが突然押しかけて邪魔かなとは思ったのですが……」


「何? アドルフと?」


 リゼットがアドルフの名前を出すと、スイーツを食べていたアルベールの手が止まった。そして何かを考えるような顔をしている。

アルベールにときめいていた私は、目が覚めたようにハッとして気づいた。これはトラブルの元!すぐに対応しないと!

アルベールが、最も信頼している騎士のアドルフとリゼットを取り合うとかすごく見てみたい展開だけど……。

ダメダメ。そんなの絶対ダメ!

アドルフはリゼットとは全くの無関係であることを証言しないと。


「そ、そうなの。偶然アドルフとカフェで会って。妹君の誕生日に贈るケーキを買うのに苦労していたみたいなのでわたくしが食べていたスイーツの試食をしてもらったの」


「クリスティーナが食べていたスイーツを試食……」


「ええ、そうなの。オホホホ」


 アルベールは私に愛情なんて持っていないし、アドルフと私の仲など興味はないだろう。これでいい。とにかく、アルベール以外の男性がリゼットに近づかないようにしないと。

私は、冷静を取り戻すために紅茶を一口飲み込んだ。

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