考え込んでいるようなアルベールを気にしつつも、その後は当たり障りのない雑談をしているうちにお茶会の終了する時間となった。
アルベールがまず席を立ち、私に軽く帰りの挨拶をすると従者たちを連れて出口に歩いていく。私は、それを見送るようにその場に立っていた。
その時、なぜか列の一番最後に並んでいたアドルフが小走りで私に駆け寄ってきた。
「クリスティーナ様。どうかあの伯爵令嬢にはお気をつけくださ……」
「アドルフ! 何をしている? 早く列に加われ!」
私に駆け寄り、神妙な顔でそうつぶやいたアドルフの後ろからアルベールの苛立った声が聞こえた。
「はっ! 申し訳ございません!」
アドルフは、私の顔を見ることなく軽く頭を下げると、すぐにアルベールの従者たちの列に加わっていった。
(あの伯爵令嬢に……? その後なんて言ったんだろう?)
私は、アドルフの言葉に疑問を感じながら、そっとリゼットを盗み見た。
リゼットは、アルベールの後ろ姿をいつまでも見送っており、その顔はうっとりしているように見える。リゼットはもうアルベールに恋をしているようだ。
うーん。まあ、順番が違うけど終わりよければってやつよね。
アドルフが何を伝えたかったかわからないけど、なんとかなるでしょ!
動き出したアルベールとリゼットの恋の行方にドキドキしていると、さっきまでの疑問は私の記憶のはるか彼方に消えていった。
***
クリスティーナの屋敷で行われたお茶会が終わり、帰りの馬車に揺られながらアルベールはまだ考え込んでいた。
クリスティーナは、明らかに変わった。
どういうことなんだ。
そして、アルベールの胸がざわつくことがまだあった。アドルフのことだ。
お茶会が始まる前のクリスティーナとアドルフの様子。目で会話をしている
それに帰りがけのアドルフの行動。
クリスティーナに駆け寄って何を二人で話していたんだ。カフェで親しく話していたと、あの令嬢も言っていたし。
くそっ! なぜ俺がこんな気持ちになるんだ。クリスティーナのことが頭から離れないだと? ふっ、笑わせる。
俺はクリスティーナに何の感情も抱いていないはずだ。そうだ。今もこれからも。
アドルフも俺にとっては最も信頼できる騎士だ。あいつが俺の婚約者に手を出すなんて絶対にありえない。
きっと疲れているんだな、俺。
少し眠ろう……。
城に着くまでの間、アルベールは何もかも考えるのをやめて静かに瞼を閉じた。
***
今日の殿下もすごく素敵だった。
リゼットは、帰っていくアルベールの後ろ姿を見ながらうっとりとしていた。
まさか、あの女のほうから私をお茶会に招待してくるなんて思わなかった。
カフェでの出来事をなんとも思っていないのかしら。相当な脳内お花畑ね。
うふ。でも私にとっては好都合だけど。
あのアドルフという騎士とあの女が、カフェで仲良く話していたって言った時の殿下の顔。あはは。絶対二人の関係に疑いを持ったわよね。
殿下の婚約者に手を出したとしたら、あの騎士は処刑されるくらいの罪になるわ。そしてあの女も一緒にバイバイ。処刑はされなくても国外追放くらいにはなるんじゃない? 国の王太子が婚約者と信頼する騎士に裏切られたなんてなれば大問題よ。うふ、うふふふ。
あ〜、早く殿下が勘違いをしてあの女と婚約破棄しますように♪
でも待って。あの女は私のことをなぜか気に入っているようだから、これからも何かと気にかけてくれて私が殿下に近づく機会が増えるかもしれないわね。
もうちょっと使えそうかしら。
すぐにエンディングなんてつまらないものね。私が殿下にもっとあの女の毒を飲ませてあげる。
うふ、うふふふふふ。