目を覚ますと、口いっぱいに棒状のものを咥えさせられていた。
息ができないほど、力強く、無遠慮に、無慈悲に喉奥まで押し込まれていく。
固くて、太くて、そして、とても冷たい。
もがきながらまぶたを開けると、やせ細った男の姿があった。
その姿には見覚えがある。
画家だ。いや、パパだ。パパだった人。
オレは――いちごは――わたしは、すぐに悟った。
殺される。
狩りで撃ち抜かれた、イノシシみたいに。
パパの瞳から涙が落ちた。それは銃身をつたって、血と線香の煙を混ぜたような味になって、わたしの口の中に入り込んできた。
わたしは必死にもがこうとした。
でも、まったく動かない。
やめて。
助けて。
ごめんなさい。
わたしがママのこと、思い出したから。
パパがパパじゃないって、知っちゃったから。
パパにはじめて出会った時、頭を殴られたことなんて、気にしていないのに。
パパのことが大好きだよ?
変なところで怒ったりするけど、わたしのことをずっと気にかけていてくれたこと、知ってるよ?
だから、お願い。
引き金を引かないで。
わたし、まだ死にたくないよ。
こんな冷たいので死にたくない。
……ママ。
謝りたいの。
忘れちゃって、ごめんなさい。
もう一度、会いたかったななぁ。
ママのハンバーグ、食べたかった。
褒めてほしかった。
撫でてほしかった。
髪を結んでほしかった。
一緒にお風呂に入りたかった。
中学校に行って、制服を着たかった。
ママに褒めてほしかった。
彼氏を作って、恋愛したかった。
友達とゲーセン行って、プリクラ撮って、帰りにクレープ食べて……
ああ、なんでこんなにいっぱい、浮かんじゃうんだろう。
あ、引き金。
引かれていく。
この後、苦しむのかな。
天国って、どういうところなんだろう。
あ、でも。
わたし、天国にいけるのかな。
どうだろう。
たぶん、無理だよね。
ママのこと、忘れちゃうし。
パパのこと、裏切っちゃうし。
わたし、全然いい子にできなかった。
でも、これで、ちょっとはいい子になれるかな?