助手はガイコツをかぶりながら、山の中でイノシシを解体している。
しかし、その動きはどこかぎこちない。
その理由は明らかだ。
右を見ると、同じくガイコツ。
左を見ると、またまたガイコツ。
助手はガイコツを被っている一般男性不審者だ。
だが、両隣にいるガイコツは違う。体まで完全にガイコツなリアルガイコツである。
(すごく気まずい)
ガイコツ達の手さばきは見事なもので、あっという間にイノシシが解体されていく。
しかし、助手の手は全く動いていない。動きについていけないのだ。
助手は肩身が狭くて仕方なくて、恐る恐る口を開く。
「あの、今日はいい天気ですねっ」
ガイコツ達は反応しない。
手を黙々と動かし続けるだけだ。
「ガイコツさん達って、太陽光に弱かったりしないんですか?」
こちらも反応がない。
しかし、明らかに太陽光の影響を受けているようには見えない。
彼らは態度で答えてくれている。助手は前向きにとらえることにした。
「へー。すごいですねー。生前は何をしていたんですか?」
3度目の無言。
(バイト初日の気分だ!!!)
助手は我慢できなくなり、その場から逃げ出した。
向かった先には、川辺でくつろぐ2人組がいた。
「探偵さーん、って!」
探偵がすごい格好でいて、助手は驚愕した。
「すごい、ふかふか」
探偵は一ノ瀬管理人の上に座り、後頭部を豊満な胸にうずめていたのだ。
「いや、なにをやってるんですか。失礼じゃないですか。相手は天下の管理人さんですよ!? 相手が本気出したら、こちとら事務所がなくなってしまうんですよ!?!?」
「いいのよ。私の胸はこのためにあるの」
「そんな訳ないでしょう!?」
助手は頭を抱えて、うなだれた。
「それで、あれ、なんですか?」
「ん、すけるとん、おとも、だち」
「いや、一ノ瀬さんもいるんですよ!? こんなやばいの見せちゃダメじゃないですかっ!」
一ノ瀬管理人の顔色を伺う助手。
しかし、彼女はしたり顔を浮かべていた。
「あら? もう色々と聞いてるのよ?」
「……えっ」
「マンサちゃんのこと、いっぱい聞いちゃったもんね。ねー」
「ねー」
探偵と
つい先日までは依頼人と探偵というだけの関係だったはずなのに、親子のように
(いや、適応力高すぎるでしょ、この人。ていうか、いつの間にこんなに仲良くなってるんだよ……)
「それで、バーベキューの準備はまだなのかしら?」
「今、ガイコツたちが頑張ってくれています」
「え。助手さんもやってくれないのかしら?」
「いや、言葉も通じてないし、一緒にいるのがつらいんですよ。それに、手際が異様にいいので……」
「あ、せってい、してなかった」
探偵は言うや否や、手を叩いた。
すると、まるでミュートを切ったみたいに、声が聞こえてくる。
「うっひょーーー! このイノシシはたまらんべっ! 最高の脂」
「いやー。山の主さ捌けるなんて、鼻血が止まらんべ! おらスケルトンだげどな!」
「んだんだ。これもあのおなごに感謝だな」
「べらぼーな牡丹肉をくわせてやらねえとな」
「んだんだ!」
スケルトンは独特の訛りかつ、大音量で話し始めてしまった。
「おー。おしゃ、べり」
(いや、今度はうるさすぎて入りたくねえ。っていうか、癖強すぎるだろっ!)
助手はもう色々と諦めながら、一ノ瀬管理人に向き直った。
「それで、一ノ瀬さん、なんかキャラ変わってませんか?」
「あら、これが私の素よ? 初対面の時は弱っていたし、初めて会う人には猫を被るものでしょ?」
「そういえば、聞いていませんよ」
「何をかしら?」
「どうして、オレ達の事務所があるビルのオーナー兼管理人になっているんですか?」
一ノ瀬管理人はニヤリと笑って、脚を組んだ。
まるで悪の女幹部のような風格だ。
「そうね。じゃあ、推理してもらいましょう。あなた達、探偵事務所の人でしょ?」
(最初からこうする気だったのか)
助手は怪訝な顔をしながら、探偵を指さす。
「それなら、そっちの根黒マンサが探偵ですよ」
「うちの娘に探偵なんてできるわけがないでしょ」
「いや、いつから娘になったんですか……?」
「き、のう……?」
「……意味がわからない」
助手は頭を抱えるのすら面倒になって、その場に座り込んだ。
「じゃあ、助手さんに推理してもらいましょう。答えられなかった場合、」
「なんで!? ここまで運転してきたのはオレですよ!?」
「でも、車や土地を用意したのは私よ? それに、推理もできない」
「……ぐぬぬ」
助手は反論できず、奥歯を噛みしめた。
「じょしゅ、がんば、えー」
一ノ瀬管理人の胸に後頭部を
それを見て、助手の額に青筋が立った。
(うらやましくはないけど、無性に腹立つな)
助手の瞳がメラメラと燃え上がっていく。
応援に励まされたわけではなく、怒りで闘志に火が付いたのだ。
「わかりました。やってやりますよ」
一ノ瀬管理人は早速、人差し指を立てた。
バーベキューを賭けた推理が今はじまる。