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第21話 一件落着?

 探偵と助手は川沿いを歩いていた。

 道はもちろん整備されておらず、獣道を通っている。


 山の奥へと入っていくほど、旅館の姿は遠ざかり、木々の密度があがっていく。



「本当に、こっちの方角なんですか?」

「まちがい、ない」



(……同じ日本とは思えない光景だ)



 助手はスーツからTシャツに着替えてきた判断を自賛しつつ、探偵の後ろについていく。


 どれだけ進んだのだろうか。

 意外と、そんな距離ではないかもしれない。

 しかし、すでに助手は息を荒らげ始めていた。



「つか、れた?」

「山道に慣れていないので、結構大変なんですよ」

「じょしゅ、すこし、きたえる、べき」

「これでも、健康を維持するぐらいには運動してますよ。それに、オレの担当は頭脳労働ですから」



 疲れすぎた助手は木の根に躓いて転びそうになった。

 しかし、探偵に助けられて、事なきを得た。



「じょしゅが、たんてい、なのれば、いいの、に」

「嫌ですよ。オレは助手になりたいんです。探偵になれる器もないですし。それに打算もあったんですよ」

「だ、さん?」

「話題になると思ったんですけどねぇ。探偵さんは見た目がいいので、美少女探偵! みたいな感じで」

「わたし、こうこく、がわり?」

「最初はそうするつもりだったんですけど。サイトとかも、探偵さんのグラビアとか載せたり、動画を投稿してみたりとか。そうすれば、話題になって仕事が大量に舞い込んでくる! と最初は考えていたのですが、まあ、諸事情によりお蔵入りになりました」



(児童ポルノ認定されそうな見た目だからなぁ。それに、戸籍がないから年齢を証明できないし、よくよく考えると面倒事の方が多そうだったからなぁ)



 助手は昔を懐かしみながら、ため息をついた。

 そして、何気なく。

 悪気もなく。

 次の言葉を口走ってしまった。



「そういえば、探偵さんの歳って聞いたことがないですけど、さすがに成人してますよね?」



 一瞬で、空気が冷え込んだ。

 助手の額から出てくる汗が、冷や汗へと変わる。



「……ふぁっ、く」



 勢いよく中指を立てた。



(あ、やらかした。探偵さん、一応女の子だった)



「…………これ、だから、じょしゅ、は」

「ちょっと! そんなに急がないでくださいっ! オレ、もう限界なんですよ!?」



 助手の懇願も虚しく、そそくさと進んでいく探偵。

 これ以上刺激するのも怖くて、助手は必死についていくしかなかった。



 それから、20分ほど経った頃。探偵がようやく足を止めた。

 助手は滝のような汗をかいて、その場に倒れ込んだ。



「ここ」

「どこにも見当たりませんけど?」



 いや。



「よく見ればここ、一度掘り起こした跡がありますね。つまり……」

「うめ、られ、てる」

「……じゃあ、他殺、ですね。一応病気で亡くなった後、発見者に埋められた可能性はありますが、そんなことをする人はいないでしょうし」

「そう、なの? したい、うめた、ほうが、いい。びょうき、ひろがら、ない」

「日本では、勝手に死体を埋めたり、傷つけたりすると犯罪になるんですよ」

「おー。いい、ほうりつ」



(ただの失踪なら楽だったんだけどなぁ)



 今から穴を掘り返さないといけない。

 そのことに助手は絶望した。


 しかし、そんなのは杞憂だった。

 探偵は素手のまま、犬のように掘り起こしてしまった。


 かかった時間は3分ぐらいだろうか。

 あっさり、人ひとりがすっぽり入りそうな深さまで到達してしまっていた。 



(……まあ、できるか。探偵さんなら)



 穴から出てきたのは、3つの黒い袋だった。 



「黒い、袋ですかね? うわ、開けたくないなー」

「この、なか」

「わかっていますよ。でも、オレは流石に見れないです。絶対にバラバラ死体じゃないですか」



 この死体をどうするべきか、警察にどう連絡するべきか。

 身長に考えていると――



「おいっ! こんなところで何をしてやがる!?」



 攻撃的な男の声が響いた。

 声がした方を向くと、そこにいたのは中年男性。

 よれよれのシャツを着ており、無精ひげを生やしていることから、あまり身だしなみを気にしないタイプなのだろう。それとも、育ちが悪いのかもしれない。



「一体誰ですか?」

「その黒い袋――」



 無精ひげ男は黒い袋を見るや否や、目の色を変えた。



「どけっ!」



 勝手に袋が開けられると、強烈な悪臭が周囲を包み込む。

 助手が止めようとしても振り切り、男は袋の中身をひとつ取り出した。


 右腕。

 切断されて、血まみれの。



「……なんで、なんだよ」



 手が震えて、自然と右腕が地面に落ちた。


 一瞬呆けたかと思ったら、男の表情が変わる。

 まるで親の仇に出会ったかのように険しく、獰猛に。


 そして、あろうことか、死体の右腕を踏みつけたのだった。

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