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第11話

 治療を終えたアオ君に話を聞くと、彼は私と同じ十八歳だった。タヌキの姿は「獣化」と呼ばれ、普段は人型――いわゆる半獣の姿で過ごしているらしい。ただ、今は戻るにも服がないため、変身をためらっているという。


「私、アオ君の半獣の姿が見たいです。なってください」


「やだよ! 女の子二人の前で裸になれるか!」


「大丈夫です。私はメイドなので、別に気にしません」


「おい! メイドとかは関係ないだろ! そこは女性らしく気にしろ!」


 シュシュはアオ君の「半獣」という言葉に大興奮していた。


(黙って聞いていたけど、私もアオ君の半獣の姿がちょっと気になる)


 半獣の姿が見たくなり、シュシュと相談して、夕飯の買い出しのついでにアオ君の服も何着か買うことに決めた。タヌキ姿のアオ君に留守番を頼み、カサンドラはメイド服姿でシュシュと共に、近くの村から発つ相乗り馬車に乗り込んだ。


 馬車に揺られて辿り着いたのは、別荘から十分ほどの距離にある「サタ」という街。冒険者ギルドや商人ギルドがあり、昼夜問わず賑わっている。食料品や衣類、雑貨を扱う店も多く、買い物には困らない。


 街に入ると、カサンドラはビラを売る少年を見つけた。


 そのビラは銅貨五ピールで販売されており、月に一度発行される。主に国政の話題が掲載されていて、先月のアサルト殿下との婚約破棄についても載っていた。


 今やビラは、次の婚約者である妹について、あるいは自分のことが書かれていないかを知る、カサンドラにとって貴重な情報源だ。


「シュシュ、国の情勢と四月の花祭りの記事は載っているけど……殿下とシャリィの婚約発表は載っていないわ」


「カサンドラお嬢様、私は文字を読むのが苦手でよくわかりませんが、それっておかしくないですか?」


「ええ、おかしいわ。婚約破棄からもう一ヶ月は過ぎているのに……そろそろ婚約したという、記事が載っていてもいいはずよ」


 春の舞踏会で見た二人は、月明かりの下で情熱的な愛を語り合っていた。婚約を妨げる、カサンドラという、障害はもうないはずなのに。


 眉をひそめて、ビラを見つめるカサンドラに、シュシュが笑顔で言った。


「カサンドラお嬢様。来月の、シャリィお嬢様の誕生日にでも発表されるんじゃないですか? あまり気にしない方がいいですよ。さあ、アオ君の服とお肉を買って帰りましょう」


「シャリィの誕生日……? えぇ、そうね。私があの二人を気にしたって、どうにもならないわ。買い物を済ませましょう」


 服屋ではアオ君の服を何着か選び、お肉屋では冒険者が狩ったばかりの、貴族しか口にできない、高級な「グリーンドラゴン」の塊肉を手に入れた。


「シュシュ、いいお肉が手に入ったわね。肉食ドラゴンの肉はクセがあるけれど、これはとても美味しいわよ」


「わあ、楽しみです! グフフ……貴族しか食べられないグリーンドラゴンのお肉……今夜はステーキにしましょう!」


「ふふ、いいわね。料理はシュシュに任せて、私は横でお手伝いするわ」


 その後、服屋、雑貨屋と八百屋にも寄り、二人はサタの街をあとにした。


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